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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第二章 挫折の果てに
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第28話 マータと人形

ドール家。


それはかつてカオスの神憑の一族に仕えていた名門だった。彼らは複数の人形を自由自在に操り、暗殺や伏兵などを得意としていた。

また、世界的にも有名な人形を生産する、カオスでも数少ない世界に誇れる貴重な産業だった。

そう……だった、なのだ。

数百年前に起こったヘリオスとの戦争で、人形を作れる技術を持ったドール家の人間は全滅し、事実上の廃業に追い込まれたのだ。

カオスでも重要な地位についていた彼らは、ヘリオスに真っ先に狙われたのだ。

よりにもよって、あらゆるものを燃やし尽くす滅火の炎、火の神憑である天條院にだ。


そのような過去もあり、彼女達ドール家はヘリオス人に恨みがある筈だ。


「……お前こそいいのか?俺はヘリオス人だぞ?」


顔をマターに向けて話しかける。

しかし、マターは俯いたまま人形を動かして答える。


「ここではそんなこと関係ないでしょ?それと何処を向いているのかな?私はこっちだよ?」

「……」


シークはチラリと人形の方を見る。


(やっぱり俺って細かいところ気にし過ぎなのか?)


シークは普通の人間でもなければ普通の生徒でもない。

一従者としてまず相手を疑って当然、気を遣うのが当たり前だと学んできた。

だがしかし、それはあくまで大人の事情であり、子ども達は基本的にそんなこと気にしてなどいないのだ。


(頭では分かってたんだがなー……)


防蔓の件で、何となくそうなんじゃないかと思っていたのだが、長年の癖はそう簡単には治らないらしい。


「……俺はシーク・トト。よろしく」


とりあえず挨拶されたのに、返さないのは感じが悪いと思ったのでそっぽを向きながら名乗る。


「へぇ、シーク君って言うんだ。よろしくね!それと私はこっちだよ?」

「……」


わざと人形から視線を外して喋っているのに、マターは空気を読まず更に推してくる。


「いや、わざと視線を外しているんだが……。俺は人形と喋る気は無い」


はっきり言わないとわからないと思い、拒絶の意思を示す。


「……それは私がカオス人だから?」

「どんだけカオスにトラウマがあんだよ……。関係ねぇよ。俺もヘリオス人になって日が浅いしな。悪いが、今イライラしてんだ。話しかけないでくれないか?」


マータの過去に何かあったのかも知らないが、シークとて辛い過去はあった。

それ故、シークは他人に安易な同情なんてしないし、事情も知らない人間に優しくしたりもしない。

特に今は問題を抱え、つい先程失敗したばかりなので、尚更タイミングが悪い。

シークの言葉が通じたのか、マータは


「もうしょうがないなぁ……」


と言った。


「……」


しかし、人形は未だにシークの机の上にあり、マータも後ろ向きの姿勢を正そうとしない。

マータは先程の哀しそうな顔ではなく、何かいいことがあったかのようなニコニコ顔をしながら、人形同士で話し合いを始めた。


「シーク君って言うんだね」

「そうみたいだね!」

「私、てっきり無視されるかと思ってたよ。シーク君って怖い顔しているけど実は優しい人だったんだね」

「本当、顔は怖いのにね!それに私達、お話ししたからもう友達だよ……」

「「「ねぇ!」」」

「うるせぇよ!あと最後のやつどうやったんだ!?」


ついに我慢しきれなくなったシークがドスのきいた声を上げる。

明らかに三人分の声が聞こえたてきた。

腹話術だとしても出せる声は一人分だけのはずだ。

それはマリオネットで腹話術を使ったシーク自身がよく分かっている。


しかし、マータは三つの音を同時に出したのだ。


「あ、もう話しかけていいのかな?」

「いいみたいだね」

「イライラは治ったみたいだよ」

「治ってねぇよ!」


むしろ増している。


「ねぇねぇ、シーク君の好きな食べ物って何?私は牛モモ肉が好きー!」

「私は牛肩ロースみたいだね」

「私は牛タンが好きみたいだよ」

「ピンポイント過ぎんだろ!料理ですらねぇよ!しかもそれ食べんのマータだろうが!」


実質一人で三つ好きな物をあげたようなものだ。しかも全部牛の部位。

更にシークが突っ込もうとしたその時、授業始まりのチャイムが鳴る。


「……っ、はぁ……、もういい。お前、取り敢えず前向け」

「「「はぁーい」」」

(だからそれ、どうやって出してんだよ……)


ハモったような声を出したマータに、内心ため息をつきながら姿勢を正す。


「……」

「「「……」」」

「おい……前を向けって言ってんだろ!」

「前、向いてるよ?」

「何か言ってるみたいだね?」

「何か言ってるみたいだよ?」

「黒板の方を見ろっ言ってんだよ!」


人形達は姿勢を正し、真っ直ぐにシークの方を見続けていた。

確かに前を向いている。

だが、シークの言っているニュアンスとは真逆の方向を向いているのだ。

既に教師は教室内に入ってきている。

そして、無言のままこちらをじっと見ていた。


「ほら、こっち見てんぞ」

「関係ないわ」

「関係ないみたいだね?」

「関係ないみたいだよ?」

「いや関係あるだろ。前見てみろ、無茶苦茶怖い顔でこっち……あれ、見てねぇ」


この授業を受け持つ担任、メイリーは先程までシークの方を見ていたが、今は既に視線を外して他の生徒達に授業をしている。

生徒達は生徒達でシーク達の方をチラリとも見ていない。

その表情も授業を面白がるような、メイリーを試すような、そんな顔をしているが、シーク達の事を迷惑そうな顔で見る生徒は一人もいなかった。


普通ならばこうはいかない。しかし、興味のない他人のことなど一切眼中にない彼らだからこそこんな事が出来るのだろう。



「誰も私達のことなんて気にしてないわ」

「気にしてないみたいだね」

「気にしてないみたいだよ」

「……そうみたいだな。取り敢えず話に付き合ってやるから人形喋らすのは一体だけにしろ」

「わぁーい」


メアリーと名付けられているらしき人形が両手を上げながら喜んでいる。


「それじゃぁさっきの質問の続きね?」

「ああ、好きな食べ物だったな」

「シーク君の能力って何?」

「もちろん肉……おい、さっきと質問変わってんぞ!」


あまりにあっさり質問を変えるので、危うく能力が肉全般になるところだった。


「ねえ、シーク君の能力はぁ?」

「……」


シークの突っ込みをガン無視して我を通そうとするメアリー、もといマータにシークは頭を悩ませる。


(そうだった……。こいつらって基本的に人の話を聞かないんだった)


よく言えばマイペース。

悪く言えば自分勝手なのだ。

それでもこのまま流されるのは良くないと感じたシークは思い切った質問をする。


「人に聞く前に自分の能力を言ったらどうだ?」


これで少しは話を止めてくれるだろう。そう思っていたのだが……。


「私?私はぁ念系能力の念動力だよぉ」

「言うのかよ……」


正直大方予想はついていた。

人形には何か仕込まれているようには見えないし、別段人形を操る彼女の手から糸が出てきているわけでもない。

ならば触れなくとも対象を動かせる念力系ではないかと推測に至ったのだ。


「ねぇ、シーク君の能力ってぇ、もしかして糸?」

「……お前の耳にまで入っていたのか」


これも別に驚くに値しない。

シークが授業で糸を使った事を見た者はたくさんいたからだ。

調べようとすれば、否、調べようとしなくても聞く気があれば自然と耳に入ってくる情報だった。

シークが固定すると、今度はマータの顔が満面の笑顔になり、身体をずいっと前に出してシークに寄ってくる。


「あ、やっぱり!そうだったんだ!ねぇねぇ、もしかして人形を操れたりしない?」

「あーどうだろうな?やってみんと分からん」

「そう言うと思って用意してきたの!」

「マジかよ……」


そう言うとマータは机の横に置いていたカバンの中から、なんとシークによく似た人形を取り出してきた。

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