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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第二章 挫折の果てに

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第27話 苛立ち

次の日、シークが教室に入ると、またシャーリーはいた。


「……」


真面目なのだ。

そして、辛くとも学校に行かなければならないという、脅迫にも似た義務感によって彼女は通っているのだろう。


シークは少ない人生経験から、何か自分にできることはないかと考え、思い切ってシャーリーに近づいて行き声を掛ける。


「あー……シャーリー、ちょっといいか?」

「……」


だがしかし、シャーリーは昨日と同じで何も言わない。

無視ではなく、単純に聞こえていないのだろう。

ただただ彼女は俯いているだけだった。


昨日のこともあるし、そもそもこのくらいで怒るほど短気ではないシークはもう一度声を掛ける。


「シャーリー、聞こえてるか?」

「……」

「……寝ているのか?」


二度目も反応がなかった為、シークは少し身を屈め、俯いているシャーリーの顔を覗き見る。


「……お前、寝てないのか?」


シャーリーの目元には大きなクマがあり、あれから今日まで寝ていないことを表していた。

よく見れば、厳しい修行の中でも手入れを欠かさなかったであろうきめ細やかな肌は少し荒れていた。


顔を見ながら呟いたシークにやっとシャーリーは反応を示す。

ゆっくりと濁った視線を机からシークに移す。

暫く虚ろな視線をシークに向けたシャーリーだったが、ジワジワと脳に染み込ませるようにシークを認識し始める。


すると、シャーリーは段々とわなわな震え出し唇をギュッと噛む。

そして一瞬だけ悔しそうな顔をしたかと思うと、ハッと何かに気付いたような顔になる。

自責の念に駆られたように小さく、


「ごめんなさい」


とだけ呟いた。


「あ、いや……」


突然のことに、シークもどう反応すれば良かったのか分からず、気まずい空気が流れる。

シャーリーはその空気を察したのか、伏せている視線を更に伏せる。


それから消え入りそうな声でポツリと


「放っておいてください」


と言った。


「ああ……すまなかった」


その声を聞いたシークは顔を上げ一歩離れると、そう言って離れて行った。


その後、窓際で静かに授業を受けたシークは今週二回目の特殊技術学の教室へと向かった。


「はぁ……」


誰とはなしについ溜息をついてしまう。


(俺ってこんな無能だったのか……)


世間の常識をあまり知らないシークは、正直なところ強ければなんでも出来ると思っていたところが少しあった。

しかし、コキノス組一年最強になったとしても、出来ないこと、役に立たないことがたくさんあるということに今更ながらに気付かされ、気持ちが沈んでしまう。

奈落山であればいい、もっと上手くことを運んだであろう。

防蔓であればもっと事を穏便に済ませられたであろう。

そんな考えが脳裏にチラつき、つい廊下の壁を殴る。


「くそっ……」


ヒリヒリと痛む拳を、更に硬く握り締め、教室へと入る。

そこでシークは、先日と同じようにドアに一番近い席、教室への一番右前の席に座ろうとして立ち止まる。


先客がいたのだ。

人形を両手に握り、不可視の力でもう一体の人形を動かす少女。


(名前は確か……マター・ドールだったか)


先日、名前だけとはいえ一応自己紹介はしたので覚えている。

それにドール家は人形使いの一族でそれなりに名前が通っている。


(……この前と同じ席に座れよ)


先程のこともあり、心が少しやさぐれていたシークは、そんなどうでもいいことにもイラついてしまう。

別に席が決められているわけではないが、一度席に座ったら、次もだいたい同じ席に座るのが一般的だ、と思っていたのだ。

実際、他の生徒たちは、先日と同じ席に座っている。

彼女だけが何故か、シークが前に座っていた席に座っているのだ。


もちろんそれをわざわざ言ったりはしない。

シークは黙ってその少女の後ろの席に行き、腰を下ろした。


「……」


もちろん会話なんてものはない。

シークも黙ったまま特に理由もなく廊下側の壁をじっと見つめ続ける。


すると……。


「今日は!初めまして!私、メアリーって言うの!貴方のお名前は?」

「あ?」


突如前から聞こえてきた声に視線を戻すと、そこには三体の人形がシークの机の上に並んでいた。


「あれ?聞こえなかったのかな?じぁあもう一度言うね!初めまして!私、メアリーって言うの!貴方のお名前は?」

「……」


シークは人形に目を向けたまま固まる。

記憶違いでなければ、少女の名前はマターだった筈だ。

それともメアリーというのは目の前の人形の一体の名前なのだろうか。


「ねぇねぇ、なんで無視するの?メアリーのことが嫌いなの?」


じっと人形を見つめたまま動かないシークに、メアリーらしき人形が一体、近づいてくる。

西洋人形なので口は動いていないのだが、不可視の力によってか、手足は動いているのが少し不気味だった。


「ねぇねぇ、なんで無視するの?ねぇねぇねぇねぇ」


更にゆっくり近づいてくる人形に、シークは自然と体を後ろに遠ざける。

そんなシークを見て、メアリー、もといマターは傷付いたように俯き、小さくこう言った。


「それとも私が……カオス出身者だから?」

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