第29話 操作
授業中だというのに人形の操作をお願いされた。
しかも、マータから渡されたのは、黒髪黒眼、しかもその眼の閉じ具合や顔の輪郭が明らかにシークと同じの人形だった。
「……勘違いだったら悪いんだが、これってもしかして俺か?」
「うん!そうだよ!昨日、徹夜で作った自信作なの!大切にしてね!」
「え……」
(いらないんだが……)
腰を浮かせるぐらい前のめりになりながらマータは人形を押し付けてくる。
しかし、シークはれっきとした男だ。人形遊びにはこれっぽっちも興味がないし、自分と同じ顔の人形を持ち歩いているというだけで恥ずかしい。
だが、人の好意の断り方も知らないのだった。
結果、シークは人形を見たまま固まってしまった。
「ねぇねぇ、どうしたの?もしかして……迷惑だった?」
先程までの笑顔が一転、マータは泣きそうな表情に変わる。
「いやいや、待て待て。嬉、し……いぞ?」
「本当に?」
「本当、だぞ?」
「わーい!」
視線を外し、なんとか言葉を絞り出した嫌々感バレバレの対応だったが、マータは両手を挙げて喜ぶ。
「はぁ……」
「ねぇねぇ、早く動かしてみせて!」
キラキラした目でせがむマータに後押しされて、シークは仕方なく能力を発動する。
そして、人形の身体の中に糸を潜らせ、本物の人の様に神経の糸を張り巡らせていく。
「ん?これ……陶器で出来ているわけじゃないんだな」
シークの知っている知識では、人形というのは基本的に素焼きの陶磁器だけだった。しかし糸で触った感触は陶磁器よりも軟らかく、柔軟性に富んでいた。
「そうなの!スムーズに動かせる様に可動域の高いゴムで作ってるのよ!」
「へー……いや、というか、ゴムにしろなんにしろ一日じゃさすがに作れないだろ?」
「うふふ、もちろん原型は最初からあったわよ。私が昨日徹夜でやったのは塗るところよ」
「ふーん、おっ、瞼が動くのか!芸が細けぇな」
相槌を打ちながら人形の身体に神経の糸を張り巡らせていたシークは、とうとう瞼や手先やつま先などの細かい部分まで糸を到達させた。
「まあこんなところだろ。んじゃ、動かすぞ?」
「わくわく!」
既にメアリーを動かすことを忘れ、マータ自身が喋っているのだが、それに突っ込むことなくシークは人形を動かし始める。
すると、生気なく座った状態だったシーク人形が一瞬ピクリと震え、ピョコンと跳ねる様に立ち上がった。
「わぁー!」
「おお、動いた。よっと、これで……」
最初は壊れたロボットのように両手両足を同時に動いていたが、すぐに普通の人のように歩かせることに成功する。
「ここをこうすると……こう動くのか。だから……」
それはまるで目隠しでジグソーパズルを解いているかのような感じだった。
ゆっくりと開いている両手を握らせてみる。
そしてそのまま軽くジャブを放ってみる。
シュッ、シュッ、と小気味がいい音を鳴らす。
「うん、良い感じだな。関節部分がやっぱりまだ固いが、慣らせばもう少し軟らかくなるだろう……どうした?」
さっきから黙ったまま俯いているマータを訝しみ、シークは顔を近づける。
よく見れば少しプルプルと震えている。
「どうした?何か不味いことでも……」
「す……す……」
「す?」
「すっごーい!」
「うおっ!?」
少し顔を近づけていたシークに鼻と鼻がくっつきそうになる程顔を近づけてマータは叫んだ。
教室内どころか校舎中に響き渡るほどの大きさだった。
「指まで動かすのに私なんて一年は掛かったんだよ!それをこんなすぐ出来ちゃうなんて、すごぉーい!」
「分かった、分かったから少し落ち着け」
「そこ、もう少し静かにしなさい」
「す、すいません」
叫んだマータに対して、メイリーが注意をするが、マータは振り向くことなくシークを見続けている。
だから、彼女の代わりにシークは素直に頭を下げて謝罪した。
「よろしい。他の生徒の邪魔にならないように喋りなさい」
すると、メイリーは再び授業を開始する。
(止めないのかよ……)
声の音量を下げろと言われただけで、会話を止めろとか、黒板の方を向きなさいとは言われない。
「まあとにかく落ち着け。念道力と俺の糸じゃ扱いやすさが違うんだ。それに修練を重ねた時間もある。それに似たようなもの動かしてるしな」
「ほぇー!」
念道力で人形を動かすのと、糸とはいえ直接人形の中に入り動かすのとでは難易度が全然違う。
それにシーク自身、シャーリーとの戦いでも使ったマリオネットという、自分自身の分身を糸で作り出し動かしている。
寧ろ、念道力という扱い辛い能力でたった一年でそれを出来たマータの方が凄い。
そう思ってマータを褒めようとした次の瞬間、マータが信じられないような言葉を口にした。
「これで一緒に人形店を開けるね!」
最初から分かっていたことである。
天職持ち達はヤバい奴らであると。
しかし、まさか流石のシークも予想外すぎる展開にこういうしかなかった。
「は?」




