95話 専用色
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結婚式をやるかどうかはともかくとして、常若の国が施した邪神のダンジョンの封印を解除する準備は着々と進んでいる。
ティル・ナ・ノーグの湖があるドーム空間は湖の底まで俺のダンジョンとして領域化した。これで、封印解除と同時にティル・ナ・ノーグの都市部をダンジョンの機能による配置転換で第2層のフィールドダンジョンに移動させる予定だ。そのスペースも確保している。
ティル・ナ・ノーグの湖がなくなった邪神のダンジョンの入り口には、頑丈なダンジョン壁による狭い通路と罠、それに眷属移動用の転送魔法陣をセットした部屋を配置して、解放した時に攻め込む予定である。
現在はそのための戦力を拡充中というわけだ。
「ディアナが素直に従ってくれるといいんだけど。ティル・ナ・ノーグと戦っている余裕はなさそうだし」
「アルテミスも眷属にしてしまえばいいのではなくて? 要石になっている間なら儀式に抵抗もしないでしょう」
それもちょっとは考えたんだけどね。
元女神なら戦力としては申し分ないだろう。ただ、大きな問題があってさ。
「お姉様の眷属ですか。ワタクシ、立候補するのですわ!」
「ディアナもレヴィアの眷属にできればDPが入らないで済むのかね」
「残念ね、私の管轄は水の中なの」
問題はDPなんだよなあ。女神としての力は失っているらしいけど、それでも眷属にしたら発生するDPが多すぎるはずだ。リニアでさえダンジョンレベル8まで持っていかれた。ディアナでは無料復活できるレベルを超えてしまう可能性が高い。
邪神のダンジョンとの戦いを前にそれがなくなるのはちょっと痛い。
まあ、隣接しているダンジョンからの攻撃で俺が死んだ時点でコアも危険だ。復活代なんて考えるよりも、死なないようにするしかないんだけどさ。
「ディアナの眷属化はよく考えてから決めるよ。リニアの意見も聞いて」
「そうね。ディアナを眷属化するのなら、その前にまず私を眷属にするべきよね」
どうせ無料復活がなくなるのならレヴィアを眷属にするのは当然か。眷属になってもらえれば眷属チャットをはじめとするダンジョンの機能も使えるようになる。
DPを気にしないで済むようになるのならリヴァイアサンの力も加減しないで使えるようになるだろう。……手加減しないとダンジョンにも被害が出そうかも。
「なんだかワタクシ仲間はずれで寂しいですわ」
「モルガンには妖精教国の国民がいるじゃないか。ちゃんとお役目を果たさないと」
「こんなことなら後継者を用意しておくのでしたわ」
妖精教皇には後継者っていないのか。ポストモルガンになりそうな妖精は連れてきたシスターの中にいた気がするけど。
「フーマ様、お姉様、そろそろ戻りますわ。ワタクシがずっとお姉様のお側にいれるようにあの子たちを鍛えるのですわ」
「そう。しっかりおやりなさい」
「邪神のダンジョンの連中に気をつけろよ」
「お気遣いありがとうございますわ。それでは!」
一礼するとモルガンはカラスの姿へと変化し、ダンジョンの外へと飛び立っていった。あっという間に見えなくなってしまう。かなりの速度が出ているだろう。もしかしたら俺の飛行速度よりも速いかもしれない。
「俺も変身系のスキル覚えようかな?」
「私の姿に合わせてくれるのかしら?」
「リヴァイアサンに匹敵できそうなのってバハムート? 変身できればカッコイイかな?」
ドラゴン系のバハムートだったらカッコイイけど、巨大魚だったらちょっとなあ。
どう考えても覚えるのは無理そうだから悩む必要もないか。
◇
邪神のダンジョン対策として、むこうの出口を小さくしてやってこれるモンスターの弱体化だけでなく、こちらの戦力も強化しなければ攻めることはできないだろう。
邪神のダンジョンで暮らしていたテリーと尋問したインプの話によれば、このダンジョンに隣接している邪神のダンジョンは“暴食の十二指腸”という微妙な名前らしい。
ちなみに幻夢共和国に発生したダンジョンの名は“劇痛の盲腸”だそうだ。二つの邪神のダンジョンはそれぞれ主が知り合いらしいがそれはひとまず置いておく。
暴食の十二指腸。十二指腸はともかく暴食に不吉なものを感じてしまう。やっぱりいるんだろうか、ベルゼブブ。
このダンジョンにいるのはネズミやアリ、ハエといった小型モンスターだけではない。テリーがごちそうと言ったようにゴブリンや他の人間サイズのモンスターもいる。
ごちそうといったからにはあの軍隊アリの群れでも滅多に取れない獲物なはずだ。たぶん、未熟者のダンジョンのゴブリンよりも強いのだろう。
さらにもっと大きなモンスターもいるらしく、こちらはもっと強いのだ。
そいつら大型種に勝つにはわがダンジョンの戦力では心もとない。
レッドなら一対一でゴブリンぐらいには勝てそうだけど、数が増えるとキツイだろう。他のゴーレムでは尚更だ。
新たに眷属になったリニアも〈巨大化〉のスキルがあるから頼りにはしてるけど、攻め込んで無双というのは作戦にはない。
妖精騎士団のディーナシーを復活させたらどれぐらいの戦力になるんだろうか?
レヴィアがリヴァイアサンの力を使えばなんとかなりそうな気もするけど、“暴食”がどうにも引っかかる。同じ七つの大罪とされる“嫉妬”のリヴァイアサン。もし本当に“暴食”のベルゼブブがいたら……。他のもきそうで怖い。
ここはやはり、うちの兵力のほとんどを占めるゴーレムの強化が急務だろう。
「これが完成したリモートゴーレムだよ!」
コルノに呼ばれ、移動した第5層のゴーレム開発室では、コルノが嬉しそうにゴーレムを紹介する。その隣には眷属のフェアリー少女も一緒だ。
「見た目は量産型とそんなに変わらないんだな」
「そう? 見ててね。はじめて」
「はい」
コルノに促されてフェアリー少女がゴーレムと同じ色のブレスレットを装備した腕を顔の前に持ってきた。このブレスレットがゴーレムの欠片なんだろう。
「ゴーレム、歩いて」
フェアリー少女がブレスレットに言った命令に従って、リモートゴーレムが返事もなく歩いていく。
成功だ。これぐらいなら普通の量産型でもできるけどさ。
「ゴーレム、右に曲がって」
向きを変えるゴーレム。うん。単純な動きは問題ないのかな。
「複雑な動きは指示できるのか?」
「は、はい。ゴーレム、スキップ!」
俺の質問でちょっと慌ててしまったのか、フェアリー少女が無茶な指示を出した。
うわ、リモートゴーレムがスキップしてる。進化したゴータローだってまだできないのに!
「このリモートゴーレムはいろいろと覚えさせたからね。ゴータローとレッドみたいに自分で考えるのはできないけど、教えたことはちゃんとできるんだよ」
「見本の動きを見せるのが大変でした」
モーションキャプチャー?
高度な学習型ってことかな。
「まだコマンドを増やしてる最中だけど、眷属フェアリーたちに渡して慣らしてもらった方がデータが取れると思うよー」
「そうだな。データを取るならこのタイプだけじゃなくてバリエーションを増やした方がいい」
ショタフェアリーもこれで戦力化の目処が立つかもしれない。
あいつらやる気だけはあるんだけど、攻撃力が絶対的に不足してるからな。
「いまんとこ、他に猫型と犬型が完成してるよ」
「そうか。あとで支給してやろう」
「それとね、こっちが本題なんだけどね。ついに完成したんだよ!」
もったいぶっていたのかアイテムボックスに隠していた本題とやらをドヤ顔で披露するコルノ。
それはリモートゴーレムよりも大きかった。
「じゃーん! これが! 乗用人間サイズゴーレムだよ! これもね、動きは乗り手のをコピーさせる予定だから、あとでフーマが覚えさせてね! 操縦席は胴体にあってね……」
鼻息荒く解説を続けるコルノ。俺の視線もゴーレムに釘付けだ。
人間サイズというだけあって大きい。頭部の飾りを入れたら2メートルを超えているだろう。
呪いで外せなくなった鎧を着込んだ戦士に偽装して、人類種の町に行くために開発していたゴーレムだ。そのサイズからいろいろ仕込んであって、製作にはおっさんも協力している。
全身組みあがったのを見るのは初めてだけどね。
予定どおり外見は全身鎧を装備した人間に見えるようになっている。人間の町へ行ってもちゃんと誤魔化せそうだ。
鎧もかなり重装甲でゴツイ。それはまあいいんだけど……。
「ピンクが基調って……。呪われて外せない鎧って設定にするからってこんな毒々しいカラーリングなの?」
「え? 三倍早く動く色ってコレであってるよね?」
ぐはっ。もしかしておっさんから転写された基礎知識のせいでこんなカラーリングになっちゃったのか?
そりゃたしかに有名なあの人の一作目の愛機って、カラーリングは赤よりピンクの配分が多かったけどさあ。
こんなどぎついショッキングピンクじゃなかったから!




