77.5、こんな顔はそうは居ない
「ぐあっ!?」
振られた触手によって吹き飛ばされた人が洞窟の壁に叩きつけられる。
あの勢いだ、おそらくヒビは入っただろう。
「右翼は奴を抑えろ! その間に今負傷した奴を後ろに下がらせろ!」
数人で追撃に振り下ろされた触手とその人の間に入って触手を受け止める。
さすが現役冒険者、と言ったところだ。
クロードさんの指揮が的確とはいえ、あの化け物に対して今のところ犠牲者を出さずに戦えている。
「hfysgmv!」
「盾持ち部隊! 前に出て受け止めろ!」
「「「「はいっ!」」」」
薙ぎ払われた触手を盾を持っている人が四人がかりで受け止める。
少し体勢を崩しはしたが、何とかそれを止めた。
「魔法部隊!」
「「「了解!」」」
その四人が飛びのくと同時に各々の得意な魔法が化け物に向かって次々と降り注ぐ。
ちなみに私はその中には居ない。
クロードさん曰く、私は連携をするよりも遊撃として自由に動いた方が良いらしい。
「vzyrkwhfd!?」
炎に、氷に、雷に、風にさらされて苦悶の叫びのようなものを上げる。
……何だろう、何か違和感がある。
まぁいい、ここだ!
「ブレンネン!」
そしてそれらのすべてを飲み込みながら巨大な火柱が包み込む。
私の得意で、最も威力のある魔法だ。
酸欠の心配があるが、それは風魔法で空気を生み出して対応する。
「……xwrtg」
火柱に包まれた化け物は手足からボロボロと崩れていき、やがてその場には何も残らなかった。
「……ふぅ」
「「「「「「うぉぉぉぉぉ!」」」」」
皆が化け物の撃破に歓声を上げる。
そして今違和感の正体が分かった。
「ナイスだカコちゃん! 怪我人は何人いる!」
弱すぎるのだ。
以前、遺跡で戦った際には私のブレンネンは全く通用しなかった。
あの時は込められる限りの、精いっぱいの魔力をリヒトから貰い、込めた。
そして今はリヒトとの繋がりが弱くなっている、必然的に魔法の威力は落ちてしまう。
それなのに、それなのにだ。
ブレンネンで倒せてしまった。
「回復魔法が使えるものは怪我人の治療を! 治療が済み次第前進する!」
何が違う? それとも私が成長でもしたのだろうか?
いや、それは楽観的過ぎるだろう。
以前とは別個体だと考えるのが妥当。
「どうしたのカコちゃん? そんな難しい顔して?」
私がそんなことを考えてるとクーアさんが話しかけてきた。
もう治療は終えたのだろうか?
「クーアさん……いえ、少し考え事を」
「考え事?」
「はい……これで終わりなのかな、と」
「何でそんなことを?」
「以前は私の全力の魔法でも全く通用しませんでした、なのに今回はこんなあっさり倒せてしまうなんて」
「……なるほどね、もしかしたら今のは幼体だったかもしれないわね」
「あんなものが繁殖してるなんて考えたくもないですけど」
・・・ぐちゃ・・・ぐちゃ
「……そのまさかね」
「うわぁぁぁ!? あいつらまた来やがった!?」
「しかも今度は二体も居やがる!?」
「総員、戦闘配置! 敵は二体だ!」
……最悪だ、よりにもよってその最悪の可能性が起こってしまった。
ここに居ないのなら向こうにはどれぐらい居るのだろう。
お願いだから洞窟を崩さないでね。
私は魔法式を編みながら二つの不安を思っていた。




