二章十二話目
レインが目を開けると、そこは自室のベッドの上だった。
いつもと変わらない部屋の景色が、レインの目に飛び込んでくる。
――あれ?
既視感にも似た気持ちに、レインは驚いてベッドの上に起き上がる。
寮の部屋の窓からは、昼の明るい光が差しこんでいる。
レインは部屋の中を見回し、短い黒髪を掻き上げる。
――今のは、夢?
夢の中で会ったリシェンや天までそびえる大樹、白い竜のことが鮮明に思い出される。
――夢、だったのか?
少し考えてから、がっくりと肩を落とす。
――そりゃあ、そうだよな。あんな可愛い女の子が、僕なんかをまともに相手にするわけないよな。
この神学校の女の子達だって、レインが鈴牙人とわかれば、そそくさと逃げていくと言うのに。
レインは苦笑いを浮かべる。
そもそも大樹がラスティエ様で、レインにリタ・ミラ様の御子が宿り、それを育てなくてはならないなんて。
しかも平凡な高校生でしかないレインが、リタ・ミラ様に選ばれるなんて、あまりに現実離れしている。
竜の存在だって、辞書には載っているものの、まだ実際には目にしたことがないのに。
レインは溜息をつく。
――確かに夢の中なら、美人の女の子と仲良くなるのも、竜に会うのも、思い通りだよなあ
そんな夢みたいなこと、あり得ない。
いくらぼうっとしているレインでも、普通に考えればわかることだった。
ただの平凡な高校生である自分が、神樹の種を授かり、それを守り育てる役に選ばれる。
その神の樹を守る女の子から気に入られる。
――そんな都合のいい展開なんて、現実にありっこないよな。
レインは窓の方に目を向ける。
窓の外ではスミニア杉が緑の葉を風にそよがせている。
レインは長いため息をつく。
――ずる休みしていても意味がないよな。午後の授業ぐらいは出よう。
そう考え、布団をはねのけベッドから出る。
多少しわくちゃになった白いシャツを整え、壁に掛けてあった上着に袖を通す。
自分の黒い髪を手で整え、床に置いてある鞄の中を確認する。
――午後の授業は、法術の実技と、理論だったよな。とすると、イヴン先生と、ノートゥン先生か。
必要な教科書とノートを詰め込む。
鞄を背負い、部屋を出る前に自分の身だしなみを確認する。
服に大きな乱れがないことを確認し、部屋を出る。
部屋を出る時に、レインの頭に夢で出会った少女の面影が横切る。
――あの子、リシェンとか言ったっけかな。可愛かったな。
思わずレインの頬が緩みそうになる。
慌てて真面目な表情を取り繕い、部屋を出た。
寮の廊下を歩いて行った。