サンドバッグゴリラ
颯人が、憎たらしい顔をした巨大なゴリラのぬいぐるみを抱えてオフィスに戻るとカミさんを呼んだ。
「シュレッダー1位じゃなかったね。」
「最近は、替えることがなくなりました。」
「みんな、オレを鏡にしたんだろうな。オレが替えるのに、やらないわけにはいかないからね。」
「なるほど。」
「本来の1位に」
と言って、ゴリラのぬいぐるみをカミさんに渡す。
「ストレス溜まったら、コイツ殴れば?」
満面の笑みでカミさんは、ゴリラを受け取った。
「私のパンチに耐えられますかね。」
カミさんは、自分と変わらない大きさのゴリラの脇を持ち、お腹にパンチをして見せる。
「シュレッダーの順位をつけるって面白いですね。」
そう言って、颯人の部屋を出ようとしたカミさんが呟く。
「これで、電車に乗れるかな。」
「無理だな。あとで、車で送ってやるよ。」
これが、初めてカミさんと颯人が2人きりになる出来事だった。
そして、カミさんが、社宅として、颯人の家に仮住まいを始めた。
颯人はオフィスの近くに家を持っている。
知人から譲り受けた2世帯住宅で、その一角にカミさんを住まわせたのだ。
ゴリラを持って帰った時、玄関が狭くて、ゴリラが入らなかったと言う理由だけで。
理人が尋ねる。
「2世帯といっても、あの女を住まわせるのは大丈夫なのか?」
「家政婦が辞めるから、時短勤務にして、掃除を任せようと思うんだ。
あいつ、シュレッダーでは1位じゃなかったけど、そのクズが落ちてるのコロコロで掃除してんの。
それに、社内のバーベキューの時、俺たちに飲み物や食べ物を持ってくるヤツはたくさんいたじゃん。
そいつらは、要領のいいヤツら、その下準備してるヤツらに目をやったことある?
バーベキューの後も、みんながゲームして遊ぶ中、鍋洗ったり、ゴミまとめたり、オレらにまとわりついて美味しいとこ持っていくヤツらより信用できると思わねぇ?
まとわりつくヤツらは、いい条件ちらつかされたら、簡単によそに行くよ。
そんなヤツらより、評価されないところで、動けるヤツは、信用できる。
みんな驚いてるけど、理人のサブリーダーにしたヤツもその1人。」
理人は、仕事ができるかできないかでしか判断しなかった颯人の変化に戸惑っているようだった。




