颯人の母ちゃんのアルバイト
私は、理人に、颯人の母の唐揚げ屋の場所を聞き、向かった。
もちろん、颯人には内緒だ。
唐揚げ屋は、店頭販売のみの小さなお店だった。
公立高校の側で、部活帰りの学生に人気があるようだった。
価格もリーズナブルである。
「いらっしゃい。」
店頭を眺めていると、声をかけられた。
その女性は、颯人に少し似てるだろうか、理人が言っていた『肝っ玉母ちゃん』的な雰囲気はある。
「唐揚げをお願いできますか?」
「珍しいね、お嬢さんみたいな品のいい客はあまり来ないからね。」
「美味しいと伺って、」
「それはありがたいね。」
受け取ろうとした時、『元祖』と書き加えられた『甘酒アイス』の札が見えた。
「甘酒アイスもあるんですか?」
「今、流行ってるみたいだけど、うちはずっと前から売ってるよ。」
「おばさまが考案されたんですか?」
「おばさまだなんて、お姉さん育ちがいいんだね。
昔、そこの高校に通ってた子が、私が腰を痛めた時に、暇だからって手伝ってくれて、夏は暑いから、アイスをおいた方が良いって、考えてくれたんだよ。
甘酒は、飲む点滴だから、体にも良いって、作り方は簡単だけど、あまり作れないから、1日10個限定だよ。」
「まだ、残っていたら、いただけますか?」
「毎度あり、ちょっと溶けた頃が美味しいから、唐揚げ食べた後がちょうど良いよ。」
私は、店の前のベンチに座って唐揚げを口にする。
颯人の母がサービスで麦茶を入れてくれた。
油臭く、颯人のような荒さを感じる味だった。
甘酒アイスは、試作でカミさんが作ったアイスに似ていた。
「このアイスを作った人ってどんな方なんですか?」
「お姉さんと真逆、粗雑で気が強いだけの子だね。
この近くに住んでて、私が腰悪くしたの気づいて、就活が終わるまで、忙しい夕方だけ手伝いに来るって、来てくれてたんだ。
高校時代、うちの唐揚げ食べたくてもお金がなかったから、1日3個唐揚げ食べさせてくれたら良いってね。
大学も奨学金で行って、金に苦労したくないからって、結婚したみたいだけど、相手の家庭に馴染めなかったみたいだね。
物を大事にできない相手が嫌で離婚したって言ってたけど、育ちの違いって大きいからね。
嫌な思いをしてたんだと思う。
それで、離婚して、就活始めて、うちに来たわけ。
私の腰が治る頃には就職決まって、初給料で、この『甘酒アイス』の札置いてった。」
「最近は、来られないんですか?」
「最近は、来なくなったけど、このカーネーションの鉢、その子が送って来た。」
カミさんだろうか?
颯人は、母を大事にするカミさんだから、雇ったのだろうか。
少なくともカミさんは、この人が、颯人の母親であることは知らない。




