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第7話 勝負の意義と、協力要請



「なるほど、そういう事なのね」


 忙しいお母様が外から帰ってきたところを、二人で待ち構えて捕まえて話をした。

 お姉様は、玄関で二人して階段に座り話している間に少しメンタルを回復し、少しは気が紛れたようだ。


 その間に、他のお勉強についても聞いたんだけど、それらは一旦置いておいて。


「まずはセシリア、マリーシアを守ってくれてありがとう。そしてマリーシア、辛かったわね。これからは、そういう事があったら相談する事」

「はい、お母様」


 素直に頷いたマリーお姉様を見て、お母様は微笑を湛え、しかしすぐに表情を曇らせた。


「しかし、私も駄目な母親だったわね。もう少し早く貴女の変化に気が付いてあげられたら……」


 そうしたら、辛い目に遭わせずに済んだのに。

 そう思っていそうなお母様に、マリーお姉様は「それは私が言わなかったから!」と言いながら顔をブンブンと横に振る。



 そんなお姉様の頭を、お母様は優しく撫でた。


 多分、「貴女が気にする事じゃないのよ」というのと「私を庇ってくれてありがとう」という意味だと思うのだけど。


「お姉さまも、これから何かあった時は、お母さまに相談する。お母さまも、これからは一層気を配る。それでいいじゃないですか」


 今回の件は、どちらにも落ち度があった。

 現場の事は現場にしか分からない事は多いし、お母様も監督責任を果たせていなかった。


 前世の職場でもよくあった。

 私も今回のお姉様側の立場で、現状を伝える事を諦めていた。


 まぁ、私は単に「言ってもどうせ変わらない」と諦めていただけで、お姉様は「お母様も忙しいから」とか「これが貴族社会の常識だから」と思っていたのだろうから、厳密には違うのだけど。


「お姉さまも私も、これからはどうしてもお話したいことがある時は、こうしてお母さまが帰ってくるのをげんかんで待っている事にします!」

「あらあらそれは、この踊り場に休憩スペースを作らせた方がよいかしら」


 私の答えに笑ったお母様は、どこかくすぐったそうで幸せそうだ。

 どれだけ忙しくても、やっぱり求められて待たれる事は、嬉しいのだろうか。

 だとしたら、私も嬉しい。


「とりあえず話は分かったわ。社交ダンスの教師は『合わなかった』として、別の人を探す事もできるけど――」

「その前に、私たちはあの女と戦って、勝ちたいです!」


 私の言葉に、マリーお姉様も頷いた。


 実はお母様を待っている間に、二人で意見をすり合わせていたのだ。

 優しいお母様の事だから、きっと「話は私が付けるから」と言って、先程の勝負をしなくてもいい道を示してくれるのではないか、と。


 でも、私たちはそれでも尚、戦う事を決めたのだ。


「王妃様の口利きをただ「合わなかった」というだけで反故にするのは、どうしたって角が立ちますし、あの教師をあのまま放っておけば、場所を変えてブラックな教育を振りまくだけです」

「『ブラック』?」

「あ」


 お母様が首を傾げた。

 お姉様も頭上にクエスチョンマークを浮かべている。

 二人して可愛い仕草だけど、それは今は横に置いておいて。


 なんかいい訳、誤魔化しを……。


「あの女が私たちと勝負をするという話になった時に見せた顔が、悪い事をして喜ぶような黒い顔だったので!」

「なるほど。他の令嬢にも同じように過度な体罰やしごきをしては被害が拡大するものね」


 よかった。

 どうにかお母様を納得させる事ができた。



 とりあえず、大した理由もなくあの女を解雇すれば、王妃様からの心証が悪くなる。


 あの人は権力持ちだ。

 前世でも、天下りで仕事にやる気がなく、どれだけお飾りの局長だったとしても、その人の機嫌を損ねた職員が何かと面倒な仕事を押し付けられ、疲弊していた場面を見て知っていた。


 ……いやまぁその結果、そのままその仕事が私に丸投げされて、残念な結果になった訳だけど。


 つまり何が言いたいのかというと、たとえ外面だけでも人間関係は大切なのだ。

 かなり理不尽だし効率的じゃあないとは思うけど、少なくとも相手に対抗しうるだけの権力か影響力を持つまでは、「急がば回れ」の戦法を取る方が得なのである。


 だから。


「『あの女の仕事ぶりが酷かったから』という客観的な事実を作って、解雇の落ち度があちらにあったと確実に証明する。それができれば王妃さまの話を反故にするお母さまの正当性が示せますし、顔を潰されたも同然の王妃さまも、他の令嬢にあの女を勧めないでしょう。それが、あの女の行っていた事への正当な意趣返しになる筈です」

「それは確かにその通りだわ。……ところでセシリア」

「何でしょう?」

「貴女、いつの間にそのような論理的な思考と言い回しになったのかしら」


 ギクッ、と肩を震わせる。


 この手の話をしていると、というか、前世の記憶が絡んでくると、どんなん気を付けていてもやっぱり、前世の語彙とか思考に寄っちゃうんだよねぇ。

 でも分かる!

 確実に四歳児の話し方じゃない!!


「……オトウサマトオカアサマノ、マネデス」

「あらまぁ」


 棒読みになったいい訳に、お母様は少し驚き、ほのぼのと笑った。

 よかった、また納得してくれたみたい。


「それでは二人で頑張ってあの教師と戦う方向で進めましょう。戦いの日までの数日間は、別のお勉強もキャンセルしておきます」

「お母様!」

「ありがとうございます!!」


 お姉様と二人してお礼を言って、お互いに目を合わせて笑い合った。

 するとお母様が、微笑ましいものを見ているような表情で「それで?」と聞いてくる。


「現時点で、その戦いに勝ち目はどのくらいあるの?」

「今は半分くらいです。でも、お母さまが協力してくれれば、百パーセントにする事ができます!」

「あら、それは私の責任も重大ね。それで? 私は何をすればいいのかしら」


 協力してくれるらしいお母様の返答に、私はニッと笑って告げた。


「お母様の――『社交界の天使』と謳われる人の、社交ダンスを見せてほしいのです!」




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