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姉が悪役令嬢にされたので、商人の妹が嘘を暴きます  作者: ゆきだるま
第二章

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戦いの後で

瞼の裏に、まだ白い光が焼き付いている気がした。


ゆっくりと意識が浮かび上がる。そっと目を開けると、見慣れない天井が視界に入る。淡い布で整えられた室内は簡素ながら清潔で、ここがどこかの館の一室であることがすぐに分かった。


「……起きたか」


聞き慣れた声が、すぐ傍から落ちる。

視線を向けると、寝台の横の椅子に腰掛けたシルヴィオがいた。いつものように落ち着いた表情だが、その視線はしっかりとこちらを捉えている。


「……シルヴィオ…ここは…?私……どのくらい……」


「一日だ。まだ休め。身体が痛むだろう」


短く言われ、身体を起こそうとした瞬間、肩に手が置かれる。そのままやんわりとふかふかの寝台に押し戻される。


「っ…!!」


その動きに合わせて、鈍い痛みが脇腹を走った。腹を蹴られた衝撃、壁に叩きつけられた感覚が脳裏をよぎる。


「……あっ、討伐は!?どうなりました……?」


「成功した。捕えた盗賊はすべてヴァルディアの軍に引き渡した。今回の討伐が第一王子殿下の陣営とヴァルディアの軍によるものだということも、すでに広まっている」


「……よかった……」


その言葉に、ようやく胸の奥の緊張がほどける。安堵とともに息を吐いたが、喉がうまく動かない。ひりつくような痛みに思わず顔をしかめる。


その様子を見て、シルヴィオが無言で水差しを手に取り、杯に注いだ。


「飲め」


「……ありがとう、ございます。あの、自分で、飲めます……」


だが、その言葉を最後まで言い切る前に、シルヴィオ手がそっと後頭部を支えていた。


無言の圧力に負け、観念して口を開く。ゆっくりと水が流し込まれ、乾いた喉を潤していく。冷たさが染み渡るようで、思わず小さく息をついた。飲み終えると、そっと元の体勢に戻される。


「……ありがとうございます」


「無茶をしたな」


かすれた声で礼を言うと、少しの沈黙のあと、低い声が落ちた。責めるでもなく、ただ抑えた響き。その一言に込められたものを感じて、リナリアは目を伏せた。


「……ごめんなさい」


「医師を呼んでこよう。待っていろ」


シルヴィオは無事を確認するかのようにリナリアの頭を撫で、部屋を出ていった。


しばらくして扉が開く。戻ってきたシルヴィオの後ろには、年配の医師と、そしてガルドの姿があった。


「よぉ、生きてるか」


「うん。ガルドも無事で良かった」


「いやほんと、無茶しやがるな。だがまぁ、よくやった」


軽い挨拶と共に入ってきたガルドのいつも通りの姿に、思わず小さく笑う。


医師は手際よく診察を始める。首の痣と、脇腹に触れ、状態を確かめ、やがて頷いた。


「肋骨にひびが入っておりますな。しばらくは安静に」


「……跡は、残りませんか?」


「問題ありません」


断言する医師の言葉に、ほっと息をついた。必要な行動だった。自分で決めた事とはいえ、貴族の令嬢として、身体に傷をつけることはあってはならない。


「……よかった。社交界で目立つような傷があったら困りますし……」


「お前なぁ!!」


リナリアのほっとした様子に、すかさずガルドが声を上げた。


「そこ気にするとこか!?普通!!」


「だって……」


「命張っといて見た目かよ!」


呆れたように言われ、リナリアは少しだけ苦笑するしかなかった。

やがて診察が終わり、場が落ち着いた頃、再び扉が叩かれる。


「失礼する」


入ってきたのはこの館の主人、領主だった。


「この度は、我が領の問題を解決して頂き、深く感謝する。傷の具合はどうかな?」


深々と頭を下げる。その態度に、リナリアは目を見開いた。こんな恰好で出迎えてしまったリナリアに対して、領主が頭を下げるなんて。


「頭をお上げください!それより、このような恰好で大変申し訳ございません」


「そのまま楽にしててくれ。怪我はどうかね?」


「安静にしていれば問題ないと…!医師まで呼んでいただき、なんとお礼をしたらいいか…」


リナリアが慌てて脇腹を抑えながら身体を起こし、頭を下げると、領主はにこやかに笑って肩を叩いた。


「無事でなによりだ。シルヴィオ殿、少し話しても構わないかな?」


「えぇ。ご足労頂き感謝いたします」


シルヴィオも頷き、領主はさて、とリナリアの寝台の横に腰掛け、にこやかな表情から一変、怒りを滲ませる。


「しかし、第二王子派め。我が領を巻き込みおって……」


「王都に戻れば、すぐに断罪となるでしょう。ギャリー商会の荷も王都で証拠として押収されます」


「盗賊達の処分はこちらで引き受けよう。証言もまとめておこう。無論、私も証言しよう」


「こっちでもギャリー商会は徹底的に洗う。証拠は全部まとめて王都に送る」


第二王子派は、もう逃げられない。確かな証拠が積み上げられている。シルヴィオは最後の最後まで証拠を積み間違えないように、ガルドと領主と話を進める。


一通り話し終えると、領主はスッと立ち上がり、リナリアを見下ろした。


「さて、まだ回復していないのに長々とすまなかったね。リナリア嬢、しばらくはここで静養すると良い」


「……いいえ。事の顛末を見届けたいのです。できれば、すぐにでも王都へ戻りたいと」


気遣いの言葉に、リナリアは小さく首を横に振った。やっとここまで来た。結末は、自分の目で確かめたい。

しかし、その言葉に間髪入れずシルヴィオが口を挟む。


「帰りは馬車だ。その身体で馬に乗る気か」


「……うっ、はい。馬車で、お願いいたします…」


相変わらず容赦のない正論に、心配をかけてしまったという罪悪感のあるリナリアが、素直に訂正すると横からガルドがニヤリと笑う。


「お前、リナリアのことになると随分過保護だな?」


からかうような言い方だったが、シルヴィオは、気にした様子もなく何でもないことのように答えた。


「婚約者だからな」


「……は?ちょっと待て。今なんて言った?」


「婚約者だと言った」


「いや聞こえてるわ!!」


思わず声を荒げる。そういえば貴族に戻ったことは伝えていたが、婚約したことは伝えてなかった。ガルドはシルヴィオに掴みかかりそうな勢いで近付く。


「おい、近い。何か問題でもあるのか?」


「あるだろ!!お前いつの間に!!手ぇ出したのか!!俺たちのリナリアに!!」


「語弊のある言い方をするな」


即座にシルヴィオが返す。思わず吹き出しそうになるのを堪える。笑うと肋骨に響いてしまう。でも、やっと日常に戻れた気がした。


「リナリア、脅されたのか!?」


「失礼なことを言うな」


戦いは終わった。


すべてはまだ続いていくけれど、今だけは、この穏やかな時間に身を委ねていた。


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