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姉が悪役令嬢にされたので、商人の妹が嘘を暴きます  作者: ゆきだるま
第二章

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夜明け前の策謀

ヴァルディア領主館、応接室。


重厚な机の上に広げられた地図。その周囲を囲むのは五人。


シルヴィオ、リナリア、ガルド。

そして、領主から派遣された軍の隊長と副隊長。室内には、張り詰めた空気が流れていた。


「領主様よりお借りした兵は百。いずれも経験豊富な精鋭達です」


既に装備を固めた隊長が低く告げる。隣の副隊長も静かに頷いた。


「相手は盗賊とはいえ、油断はできません。これまでの襲撃は、いずれも手練れでした」


「元傭兵崩れ、ってとこか?装備も統率も、そこらの野盗とは別物だ」


ガルドが腕を組み、吐き捨てるように言う。盗賊達の規模は推定四十から五十。数はこちらの方が圧倒しているとはいえ、手練れである以上、油断は出来ない。


「……えぇ。訓練された人間が混じっていると見て間違いないでしょう」


「捕縛した盗賊から、根城の位置は既に吐かせている。案内もさせる」


「では、正面から叩きますか?」


副隊長が問う。シルヴィオは、地図上に捕縛した盗賊たちから聞き出した根城の位置を記入し、首を横に振った。


「損害が出る。避けるべきだ」


勝つ、だけではない。削らない戦いをしなければいけない。沈黙が落ちる。その中で、ガルドがふっと勝ち気に笑った。


「なぁ、いっそまた襲わせりゃいいんじゃねぇか?」


全員の視線がガルドに集まる。ガルドは地図に示された襲撃地点をトン、と指で叩く。


「毎度やられてた事だ。荷馬車を走らせる。中身は荷じゃねぇ、兵士だ。ギャリー商会の連中に、荷が来た、って流させりゃ、向こうから食いついてくる」


「……奇襲、ですか。確かに、こちらは迎え撃つので、損害が抑えられます」


「荷馬車襲撃部隊と、根城を叩く部隊に戦力を二分させましょう」


「根城を奇襲する部隊は、出来るだけ敵に見つからないように近付かなければいけない。下手をすれば迎え撃たれる」


シルヴィオが静かに言葉を継ぐ。再び、思考が巡る。その時だった。リナリアの声が静かに落ちた。


「……では、私が先に根城の近くに向かいます」


「何だと?」


ガルドとシルヴィオが眉をひそめる。リナリアは、構わず地図の奥を指差した。


「旅人のふりをして、道に迷ったように近付きます。見張りがいれば、必ず接触してきます」


「……囮、か」


「女一人です。油断を誘うには一番かと。見張りを引きつけた所で合図を出します」


数秒の沈黙。リナリアは地図から顔を上げて、シルヴィオの鋭い濃紺の瞳を見つめ返す。揺るぎない意志が込められた翡翠の瞳が、シルヴィオから答えを引き出す。


「……成功すれば、確実にこちらに有利に戦いを進められる。失敗すれば、私たちが到着する前に死ぬぞ」


その言葉は、重く落ちた。それでも、リナリアの瞳は微塵も揺るがない。元より覚悟の上で発言したのだと、全員が理解した。


「構いません。必要な役割なら、やります」


「冗談じゃねぇ。囮だぞ!?死ぬかもしれねぇんだぞ!」


シルヴィオの視線が、鋭く細まる。そして、何か気持ちを飲み込むように一度目を閉じ、そして頷いた。


「……いいだろう」


「おい、シルヴィオ!!」


「お前らヴァルディアの人間は、どこまで顔を知られているか分からない。……リナリアが適任だ」


ガルドはシルヴィオの正論にグッと唇を噛み締める。空気が動く。少女が一人、一番重い役割を背負ったのだ。失敗は許されない。


「ガルド、地理を理解しているお前が荷馬車側だ。迎撃を任せる」


「……おう、任せろ」


「兵は二隊に分けろ。ガルド側に四割だ。残りは俺と来い」


「了解致しました」


「作戦開始は夜明け前。即刻ギャリー商会にも情報を伝えに行かせろ。闇が最も深い時間帯だ」


全てが迷いなく決定されていく。シルヴィオの言葉を最後に、会議は終わった。




人払いされた廊下。

ガルドも、隊長たちも、作戦開始に向けて動き始めた。足音は二つだけ。シルヴィオとリナリアの間に、しばらく言葉はなかった。


「……お前は」


低い声が、背後から落ちる。リナリアが足を止めて振り返る。


「自分が、使える駒、だとでも思っているのか」


その目は、静かに怒っていた。リナリアはどんな表情をしたら良いか分からなくて、でも、とりあえず笑ってみせた。貴族らしくない、下手くそな笑顔であることは自覚していた。


「はい。必要な時は、迷わず使ってください」


「違う」


即座に否定された。一歩、距離が詰まる。グッと手首を握られる。熱が、シルヴィオの怒りが、流れ込んでくるみたいだった。それでも、リナリアは目を逸らさない。


「私は、役に立ちたいんです。女であることが、役に立つなら、使います」


濃紺の瞳に、下手くそな笑顔を浮かべた自分が映り込む。静かに、だが確かに言い切る。


「守られているだけの立場で、隣に立つ資格があるとは思えません」


沈黙。シルヴィオの整った眉が、僅かに歪む。いつも言い淀むことのない彼が、珍しい。言葉を探している。


「……必ず、合図を出せ」


ようやく出た言葉は、それだった。低く、抑えた声。シルヴィオが一番理解している。この作戦に、リナリアの囮が必要不可欠であることを。


「…はい」


「遅れれば、間に合わない」


それが、引き止めることの出来ないシルヴィオの限界だった。今度はリナリアらしい、本当の笑い方で、ほんの僅かに笑う。


「はい」


その一言だけ、だが十分だった。

何か言葉にすれば、決意が崩れてしまいそうだったから、リナリアはシルヴィオの胸板に額を預けた。




中庭。兵達が静かに準備を整えている。武具の擦れる音。馬の息遣い。夜はまだ深い。


「行くぞ」


静かな、だが確かに闘気の籠ったシルヴィオの声を合図に、全員が動き出す。


ガルドは荷馬車の方へ。

シルヴィオ達は、森へと続く道へ。


分かれる直前。シルヴィオとガルドと視線が交わる。言葉はない。だが、理解している。


そのまま、互いに背を向けた。夜が、彼らを飲み込む。



盗賊討伐戦が、始まる。




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