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姉が悪役令嬢にされたので、商人の妹が嘘を暴きます  作者: ゆきだるま
第二章

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影を辿る者たち

夜のヴァルディア郊外。


街の灯りが遠くに沈み、木々の影だけが濃く落ちる森の奥。獣道すら判別しづらい場所を、数人の影が進んでいた。


先頭を歩くのは、縄で繋がれた三人の盗賊。

その後ろに、シルヴィオ、リナリア、エルン、ガルド、そして選抜された護衛達が続く。


「……こんなとこ、普通は来ねぇぞ」


「だからこそだろう」


ガルドが低く呟く。日中の陽気さは消え、目だけが鋭く周囲を見ていた。シルヴィオの返答は短い。


やがて盗賊の一人が足を止め、小声で言う。


「……この先だ」


そこから先は、全員が無言になる。木々の間に身を潜める。視界の先に、ぽっかりと開けた空間があった。


静寂。


虫の音すら遠い。どれほど待ったか分からない頃。


――ギィ……ギィ……


軋む音が、森の奥から響いてくる。


「来たぞ……あれだ……!」


盗賊が震える声で囁く。


荷馬車がゆっくりと、慎重にその空間へと入ってくる。御者は一人。それを迎えるように、反対側の影からもう一人の男が現れた。


受取人だ。


二人は短く言葉を交わしているが、距離があり内容までは聞き取れない。リナリアは息を潜めたまま、その動きを追う。


男が袋を取り出し、御者へ渡す。重みのある動き。金だ。


リナリアの視線が鋭くなる。受取人が御者と場所を入れ替え、そのまま荷馬車の手綱を握った。


「中継役ね」


「だな」


ガルドが低く応じる。元の御者はそのまま闇の中へ消え、荷馬車は別の方向へと動き出す。


しばらくして。完全に周囲から人の気配が消えた瞬間。シルヴィオが、静かに口を開いた。


「……追うぞ」


音もなく、全員が動く。距離を保ったまま、森の中を追跡する。荷は重い。鉄を積んでいるせいで、速度は出ていない。


やがて。荷馬車が完全に単独になった瞬間。


「……捕えろ」


低く、夜の闇に響く命令。次の瞬間、護衛達が一斉に飛び出し荷馬車を取り囲む。


「なっ!?なんだ!?」


御者が振り返るよりも早く、手綱を奪われ、地面に引きずり落とされる。剣が喉元に突き付けられた。


「ひっ……!!」


一瞬の制圧。無駄がない。辺りに敵の気配がないことを確認し、シルヴィオとリナリア、ガルドがゆっくりと近づく。怯えきった男は、震えながら視線を泳がせた。


「この荷をどこへ運ぶ予定だった?」


「し、知らねぇ!!俺は運ぶだけで……!」


シルヴィオが護衛に向けて手を上げる。次の瞬間。護衛の剣先が、わずかに首の皮膚をかすめ、赤い線が走る。


「ひっ……!!」


「答えろ。胴体と別れを告げたくなければな」


声は低いが、迷いがない。少しでも躊躇えば、本当に実行される。極度の恐怖に取り憑かれた男は一瞬で折れた。


「ヴァ、ヴァルディアの商会だ!!」


空気が変わる。ガルドの眉がぴくりと動く。一歩、男に踏み込もうとするのを、シルヴィオが視線で制する。


「どこの商会だ」


「な、名前は……っ、ギャリー商会だ!!そこに運び込んで……他の荷に混ぜて……王都に……!」


沈黙。


「……は?今、なんつった?」


ガルドの声が、低く落ちる。いつもの陽気な声とは違う、地を這うような低い声には、深い怒気が込められている。


一歩、踏み出す。その威圧だけで、男が後ずさる。


「俺たちの街の商会が……盗賊なんぞと手を組んだってのか?」


それは爆発する前の静けさだった。怒りで身体が震え、今にも殴り掛かろうとするガルドが、手を振り上げる前に、シルヴィオが口を挟む。


「恐らく、金で動かされている」


「……あぁ?俺たちの縄張りが荒らされてるんだぞ?」


「第二王子派の貴族から、金を受け取っている。その証拠を掴むまで、待て」


ガルドは怒りを全て抑え込むように、大きく息を吐き、そして、笑った。だがその笑みは、夜の闇よりも冷たい。


「面白ぇじゃねぇか。おい!!」


「は、はい!!」


「そのまま行け」


「……え?」


「いつも通り運べ」


ガルドの言葉に、理解が追いつかない男は、その気迫に、恐怖に震えたまま口の端を引き攣らせる。シルヴィオが補足する。


「案内しろ。その商会まで。余計な真似はするな。命は保証してやる」


「わ、分かった……!やる……やるから……!」


男は壊れた人形のように何度も何度も頷いた。


手綱が戻される。

荷馬車が、再びゆっくりと動き出す。その後ろを、影のように追う一行。


ヴァルディアの闇へ。今度は、内側へ踏み込むために。


倉庫の中。

積み上げられた木箱。鉄の匂い。油の匂い。

ランプの灯りが、仄暗い空間をぼんやりと照らしている。


「遅かったな」


奥から現れたのは、恰幅のいい男だった。一目で金を持っていると分かる、商人の装い。だが、その目は油断なく鋭い。


「……途中で少しな」


「余計な真似はしていないだろうな?」


「し、してねぇよ……!」


男は震える声で答える。商人の男は一瞬だけ視線を細めたが、それ以上は追及しない。顎で合図を送り、部下に荷を確認させる。


木箱が開けられる。中に詰められていたのは、アルヴェスト商会から奪い去った積荷。


「数は揃ってるな」


「約束の分だ」


男は懐から袋を取り出し、受取人へと放る。重い音。金貨がぶつかり合う音と共に、受取人の手に収まる。その時。


「……そこまでだ」


低く、よく通る声。空気が、凍る。商人たちが慌てたように倉庫の入り口に目をやる。いつの間にか、そこに立っていた。


黒の外套。闇よりも濃い影。

シルヴィオ、ガルド、その両脇に、リナリアとエルン。さらに背後には、静かに構える護衛達。


「なっ!?な、何だお前らは!!」


叫びと同時に、倉庫内の空気が一変する。

潜んでいた商人の護衛らしき男達が、一斉に武器へ手をかけた。


「遅ぇよ」


次の瞬間、双方の護衛達が動くより早く、影が走る。


地を踏み抜くように一歩踏み込み、ガルドが突っ込む。最前列の男の腹に拳がめり込み、そのまま背後の木箱ごと吹き飛ばす。


同時に、左右から商会の護衛が制圧に入る。武器を抜く暇すら与えない。喉元に刃。関節を極め、床に叩きつける。


「ぐっ……!」


「くそっ……!」


数秒。


それだけで、戦いは終わっていた。床に転がる男達。呻き声だけが残る。


静寂。


「……ガルド貴様!!商会連の会長とて許されない暴挙だぞ!!」


「許されないのはお前だ。俺の縄張りで何してやがる」


ガルドが商人の男の胸ぐらを掴み上げる。身につけていた装飾品が音を立てて引きちぎられる。シルヴィオが、一歩、前に出る。逃げ場はない。


商人の男の額に汗が滲む。視線が泳ぐ。


「き、貴様は、何者だ……!」


「質問は許していない」


一切の感情を含まない声音で質問を遮断し、シルヴィオは、受取人が持っていた金袋を軽く揺らし、中身を確かめる。


「……なるほど。随分と景気のいい取引だ。では、こちらから聞こう。この取引を指示しているのは誰だ」


「……っ」


沈黙。商人の男は口を噤む。だらだらと額から汗が流れ、焦りが伝わってくる。

ガルドが胸ぐらを掴む腕を強く締め上げると、恰幅のいい男が地面から浮かぶ。


「言えよ」


「この金の出所は、どこだ」


短く、命令するように。倉庫の中、完全に支配された空間で。


逃げ場を失った商人の喉が、ひくりと鳴った。


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