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姉が悪役令嬢にされたので、商人の妹が嘘を暴きます  作者: ゆきだるま
第二章

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金で買う真実

荷馬車の荷台。

縄で縛られた三人の盗賊が、乱暴に転がされる。口に噛まされていた布を外された瞬間。


「離せや!!クソが!!」


「何なんだよお前ら!!」


一斉に吐き出される罵声。リナリアは静かにそれを見下ろし、隣に立つシルヴィオへ視線を向けた。シルヴィオは、激しく吠え立てるそれを遮らない。


ただ静かに、問いを落とす。


「お前達の雇い主は誰だ」


「はっ、誰が言うかよ!!お前らタダで済むと思うっ…がは!」


その男の言葉は、最後まで続かなかった。


鈍い音。

一切の前触れなく、シルヴィオの長い脚が振り下ろされる。叩き伏せられた男の身体が人形のように跳ね、荷台に転がる。


「……ってめぇ!」


「何しやがる!!」


残りの二人が目を見開き、状況を把握し、僅かに恐怖を滲ませる。その恐怖を振り払うかのように吠え立てる。


「次。お前だ。雇い主は誰だ」


「し、知らねぇって言ってんだろ!」


次は拳が落ちる。容赦はない。剣が振り下ろされないだけ、加減されている、とリナリアはその光景を黙ってみていた。


「ぐあっ……!」


「質問を変えよう。お前だ」


淡々と。何事もなかったかのように。盗賊の血で汚れた黒革の手袋を手巾で拭き取りながら、シルヴィオは最後に残った一人に向き直る。


「何を依頼された?」


暴力に対して何の抵抗も持たない相手を前に、盗賊は震えながらも、口を開く。


「つ、積荷を……襲えって……」


今度は、何も起きない。その盗賊は求められた正解を答えた。それだけ。リナリアが静かに息を吐いた、その時。

転がされていた別の盗賊が、口の端から血を流しがらにやりと笑った。


「にしてもよぉ。いい女じゃねぇか」


「…はぁ」


「終わったらよ、ちょっと相手してくれ…ぐぅっ!!」


次の瞬間。言い終えるより先に、リナリアは短刀を振り下ろす。華奢な作りの銀色の短刀が、男の縛られた掌に突き刺さる。


「口の利き方を弁えなさい。貴方たちは今、必要だから生かされているだけよ」


空気が凍る。シルヴィオは一瞬だけ、その様子を見たが、何も言わない。ただ、続きを促す。


「続けろ」


「つ、積荷を集めて……決まった場所に運ぶ……!」


「回収は?」


「く、来る!!ある程度溜まったら!!」


「いつだ」


「明日だ!!」


間髪入れずに答える。沈黙はもうない。唯一無傷なその盗賊は、回答を間違えないように必死に言葉を選ぶ。


「場所は」


「わ、分かる!!案内できる!!」


数秒の静寂。シルヴィオは懐から袋を取り出し、無造作に荷台へ落とす。重い音が荷台に響く。衝撃で袋の口が開き、金貨が覗く。三人の視線が、釘付けになる。


「では、私からの依頼だ。元の雇い主の倍払おう」


「……は?」


「回収場所まで案内しろ」


倒れていた二人も、受けた傷の痛みなど関係ないかのように芋虫のようににじり寄る。三人の目は血走り、金貨しか目に映っていない。


「や、やる!!やるに決まってんだろ!!」


「俺たちは金で雇われただけだ!!」


「場所も全部教える!!」


我先にと、言葉が溢れる。恐怖と欲望に完全に支配されていた。シルヴィオはそれを一瞥し、リナリアと顔を見合わせた。


「使えるな」


「えぇ。ぜひ、案内してもらいましょう」




ヴァルディア。

街に到着した商隊とは、そのまま分かれる。捕縛した盗賊達は、アルヴェスト商会の護衛に引き渡された。


「明日の夜まで厳重に見張れ」


「はっ!」


「口は利かせるな。余計な接触も禁止だ」


短く、的確な指示。盗賊達は引きずられるように連れて行かれる。



宿の一室。

シルヴィオ、リナリア、エルンの三人がテーブルを囲む。地図が広げられる。


「やはり、雇われていましたね」


「えぇ。盗賊ではなく、回収役がいる」


「明日の夜、現場を押さえましょう」


シルヴィオが無言で頷く。先程の暴力の気配など微塵も感じさせない振る舞い。血が付いた手袋は、既に処分されていた。

エルンが続ける。


「私はこの街の商会を回ってきます。追加の情報を集めます」


「一応、護衛を連れて行ってね」


「かしこまりました。商隊の護衛を借りていきます」


エルンが一礼して部屋から出ていく。シルヴィオも立ち上がり、出掛ける準備を進める。アルヴェスト商会の紋様が入った外套から、黒の落ち着いた外套へ。


「私達も動く」


「どちらに?」


「行けば分かる」


リナリアも同じく外套を着替え、部屋を出て行くシルヴィオに続いた。



夜のヴァルディア。


灯りと喧騒に満ちた通り。貿易の中心地であるこの街は、今まで寄ってきた宿場町とは比べ物にならないほど発展している。


隣国の商人や観光客に溢れ、屋台や料理店が数多く並び、この街の喧騒は朝まで続く。


人混みを抜け、シルヴィオは路地の奥の店まで迷いなく進み、扉を開ける。人々の熱気と料理の香りが一気に溢れ返る。


「おうおう!!久しぶりだなぁ!!」


奥の席。大柄で、日に焼けた男が立ち上がる。赤褐色の髪を無造作にかき上げ、豪快な笑みでシルヴィオに歩み寄る。


「ガルド!?」


「リナリア!!久しぶりだなぁ!」


見知った男の顔に驚き、そして駆け寄った瞬間、脇に両手を差し込まれ、子供のように抱き上げられる。


「ちょっ……!」


「変わんねぇなぁお前!」


豪快な笑い声。リナリアを抱き上げても微塵も揺らぐことない太い腕。そして視線がシルヴィオへ向く。


「急にお前から手紙なんて届くから何かと思えばよ」


リナリアを地面に下ろし、髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜながら、にやりと大胆に笑う。


「面白ぇことになってんじゃねぇか」


この男、ガルド。ヴァルディア商会連の会長。

アルヴェスト商会とも長年の付き合いがあり、シルヴィオとリナリアが各地を回っていた頃からの顔馴染みだ。


「久しぶりねガルド。元気そうで嬉しい」


「お前は良い女になったな。リナリア」


「ふふ、口が軽いのは相変わらずね」


三人でテーブルを囲み、乾杯する。ヴァルディア名物の料理がテーブル一杯に運ばれてくる。


「というか、お前ら揃って商会辞めたんだろ?うちのリナリアファンの奴らが騒いでたぜ?」


「貴族に戻っただけだ」


「ふーん。そんな面白くねぇことのためにねぇ」


「ガルドは知っていたの?」


「こいつがただの商人じゃねぇってことくらいはな!」


太陽みたいな、大口を開けて笑う顔は、昔から見ているだけで安心感をくれる。見ているとつられて笑顔になってしまう。


「お前、今回の件は承知済みなのか?」


「いやー困ってたんだよなぁ」


全く困っていない顔でガルドはビールを飲み干す。シルヴィオは仏頂面のまま運ばれてきた拳ほどもある鶏の唐揚げに手を伸ばす。


「情報はどこまで掴んでいる?」


「ただの盗賊じゃねぇ。装備も動きも、金が流れてる。微妙に手練れでな。潰すにしても、裏が見えねぇと面倒でよ」


「今日その盗賊達に襲撃された。積荷を奪われた」


「ふはははは!!お前らが!?」


ガルドが口からビールを噴き出して大声で笑う。シルヴィオはちょっと嫌そうな顔をしながらビールを飲み干す。


「何人か捕縛して情報を吐かせた。明日現場を抑える」


「…いいねぇ。お前が動いたってことは、もう詰んでるようなもんだ」


ガルドが、にやりと笑い、ぐっとシルヴィオに身体を寄せる。新しいビールが並々と注がれたジョッキを上に掲げる。


「なら俺も行こう。俺たちの街の後始末だ」


「好きにしろ」


ガルドは豪快に笑った。


「決まりだな!」


喧騒の中。


静かに、だが確実に。


明日の回収に向けて、全てが繋がっていく。


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