仕組まれた襲撃
商隊が到着したのは、昼を少し回った頃だった。街道に並ぶ馬車の列。その中に見慣れた紋章を見つけ、リナリアは思わず表情を緩める。
「リナリア様!シルヴィオ様!」
声を上げて駆け寄ってきたのは、長年アルヴェスト商会を支えてきたベテラン達だった。
「久しぶりね。皆、変わりない?」
「ええ!お二人が戻ってこられたと聞いて、皆喜んでおります!」
気さくなやり取り。だがその目は鋭い。長年商隊を率いてきた者特有の、油断のない視線だった。
シルヴィオが周囲を一瞥する。
「構成は?」
「いつも通りです。護衛も信頼できる者のみで固めています」
「内部に不審な動きは?」
「ありません。少なくとも、我々の中には」
即答だった。迷いのない声音に、リナリアは小さく頷くと共に、胸中に安堵が広がる。
「ここ最近の襲撃は?」
「妙です。場所も時間も、まるで読まれているようで」
「荷の中身も、ですか?」
「ええ。狙いが正確すぎる」
「盗賊に情報を流している奴がいるな」
シルヴィオは短く断じた。だがそれは、内か外かをまだ断定していない言い方だった。
シルヴィオ、リナリア、エルンが合流し、商隊は再び動き出す。
街道は穏やかだった。風も、視界も、異常はない。荷馬車の荷台に乗り込み、中から様子を探る。
「ヴァルディアまでもう少しね」
「襲撃地点までは、そこの丘を越えてすぐですね」
エルンがまとめた地図を確認しながら、襲撃地点まで徐々に近付いていく。商隊にも緊張が走り、護衛達が護りを固める。
「……来るぞ」
シルヴィオが荷台から外を確認し、小さく呟いた。その直後だった。
「敵襲!!」
前方で叫びが上がる。同時に、林の中から飛び出してくる影。
数はざっと見で二十人。
荷馬車の中から盗賊達の姿を確認する。剣も鎧も、盗賊にしては明らかに質が高い。
「囲まれるぞ!陣形を崩すな!」
掛け声と共に、アルヴェスト商会の護衛達が動く。無駄のない連携で、盗賊達に対峙する。
「連携が取れているな。やはりただの盗賊ではないか」
明確な合図。統率の取れた動き。リーダーであろう男のの指示に従い、乱れずに狙いを定めてくる。狙いは一点、積荷だ。
その間、馬車の中。
「何人か生捕りにしろ」
「はっ!」
「そこそこ引きつけたら、積荷はくれてやれ」
シルヴィオが外の御者に告げる。リナリアは振り落とされないように、荷台に捕まりながら、盗賊の様子を確認する。
(統率も、装備も、普通じゃない…!)
剣戟の音が響く。叫び声、衝撃、木材の軋む音。
しばらくの攻防の後、シルヴィオが静かに口を開く。
「……頃合いだ。合図を出せ」
リナリアが息を整え、応じる。護衛に事前に伝えていた合図が出される。
一瞬、荷馬車の守りに綻びが生まれる。
「今だ!運べ!」
盗賊達が一気に荷へと殺到する。数台の馬車から、積荷が奪われる。
「追うな!」
護衛の隊長が叫ぶ。統制は崩れない。やがて、盗賊達は荷を抱えたまま撤退していった。
静寂が戻る。完全に盗賊の姿が見えなくなってから、荷馬車を止め、周囲を確認して荷台から降りる。
「怪我人は?」
「おりません」
「完全に荷物だけに狙いを定めていたな」
「えぇ。攻撃、足止め、搬出、役割分担に徹していました。間違いなく訓練を受けた動きです」
隊長がシルヴィオに駆け寄り報告する。シルヴィオはそのまま生捕りにされた盗賊達に歩み寄る。
地面に転がされ、身体を縄で縛られているが、意識はある。
「離せ!!」
「クソが!俺たちを警邏隊に引き渡すか!?」
「黙らせろ」
「は!!おい、口に布を噛ませろ!」
シルヴィオは下から睨み上げる盗賊の元にしゃがみ込み装備を確かめ、地面に転がる剣を手に取りリナリアに渡す。
「随分と羽振りがいいな。リナリア、見ろ」
「これ…軍の流用品ですね」
「横流しか、払い下げか……いずれにせよ資金源がある」
リナリアが別の男の懐を探る。薄汚れた袋を引っ張り出して中身を確認する。
「本当に、随分と羽振りが良い雇い主ですね。シルヴィオ、金貨です」
「問題は誰に雇われてるか、だ」
シルヴィオは口に布を噛まされ、話せなくなった盗賊の顎を掴み、冷徹な視線を向ける。ただの商人ではないその威圧感に、盗賊はやっと自分の置かれた状況に気付く。
「連れて行け」
「……尋問ですか?」
「情報を吐かせる」
その言葉に、場の空気が引き締まる。
温度のない声に、盗賊達はようやく恐怖を抱く。
リナリアも静かに頷いた。
(これで、繋がる)
盗賊ではない。偶然でもない。誰かが意図して、襲わせている。
運ばれていく捕虜達を見ながら、リナリアは静かに目を細めた。




