第三十八話 【斬り合い】
映画や舞台とは異なり、実際の斬り合いというものは、そう長くは続かない。
特に一対一の場合、斬り合いが一分を超える事は稀で、多くは一太刀か二太刀、時間にすればせいぜい十秒程で決着が付いてしまう。
「てぇい!」
気合いと供に富岡武兵衛の初太刀が飛んでくる。
右近は最小限の動きで相手の切っ先をかわすと、重心の掛かった相手の右足に強烈な足払いを喰らわせる。
「アッ!」
完全に重心を崩された武兵衛は、成す術なく仰向けに倒れてしまう。
間髪を入れずに右近は、倒れた相手の喉元に切っ先を突き付ける。
「ま、参った。」
もはや武兵衛は降参するしか無かった。
右近は切っ先を微動だにしないまま返答する。
「太刀を落とせ」
武兵衛は大人しく握っていた太刀を放すと、太刀はポトリと地面に落ちる。
「長十郎!」
「はい!」
注意深く二人に近付いた長十郎は、地面に落ちた太刀を素早く拾い上げると、武兵衛の手の届かない所に放り投げてしまう。
「動くなよ」
ここでようやく右近は切っ先をゆっくりと引きながら後退りをし、相手との距離を取り始める。
丸腰の武兵衛と十分な距離が取れたところで、右近は厳しく言い放つ。
「大人しく去るなら今日だけは見逃してやる。だが次は無いと思え。」
武兵衛は無言で太刀を拾い上げると、這う這うの体で逃げ出す。
武兵衛の姿が見えなくなった所で、右近はようやく自らの太刀を鞘に納め、長十郎に話しかける。
「刀を使う事だけが剣術ではない。」
長十郎は目を丸くして素直な感想を述べる。
「相手に手傷を負わせずに撃退してしまうとは・・・私には到底真似できませぬ。全く貴方という方には驚かされてばかりです。」
次回は9月24日(金)20時に公開予定です。




