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第三十二話 【継嗣を決める者・前編】
堀田正睦が去り、二人きりになったところで、家斉は改めて林忠英に確認する。
「継嗣については其方に任せると申したが、心当たりはあるか?」
「その儀につきまして、継嗣の選定は本丸の公方様にお任せしては如何でしょう?」
それは家斉にとって、全く予想外の申し出であった。
「・・・何故そうなる?」
「越前松平家の継嗣をこちらで決めるのは容易き事なれど、越前守殿は公方様にとっても身内に当たる方、こちらで全てを決めてしまうのも憚られます。
「・・・・・・」
「ここで公方様の出番を用意すれば、上様のお心の広さを示す事にもなりましょう。本丸と西ノ丸の風通しも良くなりまする。無用な争いを避けるためにも西ノ丸は手を引くのが得策と存じます。」
ここで初めて、家斉は忠英の申し出の真意を理解する。
家斉としても、本丸の家慶が不満を溜め込むような事態は出来るだけ避けるに越した事はない。
家斉は直ぐに決断した。
「相分かった。将軍家でお家騒動が起こるなど、断じて有ってはならぬ。後顧の憂いを絶つため、継嗣の件は本丸に任せる。」
「承知仕りました。」
忠英はその日の内に本丸に使いを送り、越前松平家の継嗣問題については、以後本丸が差配する事となった。
次回は8月13日(金)20時に公開予定です。




