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第二十四話 【三つ葉葵】

危地を脱した二人の目の前に越前堀が見えてくる。

堀の向こうは全て越前松平家の中屋敷だ。


中屋敷に到着した右近達は、応対した役人に来訪の目的を告げると、岡部(おかべ)左膳(さぜん)からの書状を(たく)す。


返答を待つために一旦通された部屋で、右近は先程の騒動について、疑問を口にする。


「江戸ではあのような事が良くあるのか?」


右近の問いに対して、長十郎は首を横に振る。


「いえ、滅多にありません。少なくとも私は初めてです。」


長十郎の返答は事実である。

実際江戸は、人口百万を数える巨大都市としては例外的に治安が良かった。


最前(さいぜん)の男、一体何者なのだ?」


長十郎は一瞬沈黙したものの、やがて観念し、事情を話し始める。


「実は十日ほど前に日本橋近くの煮売り居酒屋で、そこの女中に乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)(はか)ろうとした者がいたのです。」


「それが富岡武兵衛(ぶへい)だったという訳だな。」


「富岡は酩酊(めいてい)していたので、制するのは容易(たやす)かったのですが、まさか相手がこちらの顔を覚えているとは思いませんでした。」


「これで一件落着すれば良いが・・・」


「まだ続くのでしょうか?」


「相手が執念深ければな。」


「しかし富岡が知っているのは私の顔と名前だけです。いくら執念深くても、この広い江戸市中でそれだけを手掛りに探し当てられるものでしょうか?」


「事が起きたのが日本橋ならそうかもしれぬ。しかし此度(こたび)は霊岸島なのだ。霊岸島に用がある侍と言えば、越前松平家に違いないと見当が付いてしまう。」


「!」


「さらに(とど)めとなるのが、お主の胸元だ。」


「あっ!」


長十郎が身に付けた羽織には、三つ葉葵の家紋が()()()()と示されていた。


「・・・・短慮(たんりょ)でした、用心致します。」


「そうしてくれ。」


(おのれ)の名前を名乗ったのは間違いでした。これでもし富岡が攻めてきたら、その時は責任をもって倒すのみです。」


「・・・まるで元亀天正の侍と話をしている心地よ」


「何の事です?」


『戦国時代の侍と話しているようだ』という右近の感想は、若い長十郎には残念ながら届かない。


右近は苦笑するばかりであった。

次回は6月18日(金)20時に公開予定です。

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