第二十二話 【予期せぬ果し合い】
「待て!」
反射的に二人が振り向いた先には、一人の侍が立っている。
年の頃は四十手前といった所だろうか。
長十郎は勿論の事、右近より年長に見える。
男はニヤニヤと笑っているが、その眼に宿っているのは間違いなく殺気だ。
右近は自らを落ち着かせるように、低い声で男に話しかける。
「こちらは先を急いでおる。何者かは知らぬが、用向きなら手短に願いたい。」
「そう邪険にするな。俺は隣の男に用があるのだ。」
右近は男の様子に不自然なものを感じていた。
そもそも相手の目的が分からない。
さらに男が一人だけなのも気になる。
もし物盗りが目的ならば、相手が一人のところを複数で狙うのが定石だ。
今回のように複数の相手を一人で狙うというのは、相当の危険を伴う行為である。
下手をすれば挟み討ちに遭う恐れがあるのだ。
逆に言えば、男はそれだけ腕に自信があるという事になる。
相手の目的を考えていた右近が目を離した隙に、長十郎がずいと前に出る。
「私に何用か?」
「よくも恥をかかせてくれたな、あの時は不覚を取ったが、本日はそうは参らぬ。」
「何の事だ?」
「ふざけるな!先日の一件、忘れたとは言わさぬぞ!」
「?・・・!」
長十郎はようやく何かを思い出すと、半ば呆れたように返答する。
「あれはお主が悪い。」
「問答無用!」
男の殺気は本物だった。
「北辰一刀流、富岡武兵衛。貴様も名乗れ!」
「新陰幕屋流、伊崎長十郎。」
「新陰幕屋流とは知らぬ名よ。」
「そうか、されば本日知る事になる。尤も知った頃には貴様の命は無い。」
「ほざいたな!若造。抜け!」
相手は早くも殺気をみなぎらせている。
長十郎は素早く草履を脱ぐと、右近に耳打ちする。
「相手は一人です。ご加勢無用。」
右近とて腕に覚えが無い訳ではない。
しかしこと剣に関しては、長十郎の方が腕が立つ事も確かである。
その長十郎はと言えば、目を爛々と輝かせ、宛ら命のやり取りを愉しむ風情である。
『この男、生まれた時代を間違えたかもしれぬ。』
右近は呆れる思いであったが、こうなってしまっては対決を避ける事は困難であり、ここで対処するしかない。
「長十郎、油断するなよ。」
右近は止むを得ず、長十郎が戦う事を認める。
「お任せあれ」
短く応えた長十郎は実に愉快そうだ。
両者は刀の柄に手をかけ、無言でジリジリと間合いを詰めていく。
ところがいざ抜刀となったところで、事態は急変する。
「そこにおるのは長十郎ではないか!?一体どうしたのだ?」
次回は6月4日(金)20時に公開予定です。




