第十六話 【再会】
『そうは思い通りにいかぬものよ』
直訴衆の存在と、その首謀者がよりにもよって、自分が助力を目論んでいた伊崎長十郎であったという事実。
右近も端から江戸が平静を保っていると考えてはいなかったが、これは流石に思いもよらぬ事である。
本来であれば直ぐにでも幕府と接触を計りたいところだが、その前にこれはどうしても片付けておかねばならない。
そのため右近の行動は、当初の目論見とは大きく異なる事になった。
ただし、元より事が目論見通りに進むとは思っていなかった右近は、これを厄介事とは捉えていない。
この難題を見事に収めれば、江戸家老である岡部左膳の信頼を勝ち得るばかりでなく、更に力強い協力者を手に入れる事が出来るかもしれない。
そうなれば、今後の動きが極めてやり易くなる。
何より左膳の話から幕府の沙汰が未だに来ていない事が分かった以上、僅かだが時間に余裕があった。
『これは存外僥倖かもしれぬ』
そう気持ちを切り替えた右近の頬が僅かに緩む。
それにしても、と右近は思う。
『伊崎長十郎・・・確かにあ奴ならそれ位やりかねん。目に浮かぶわ。』
右近は長十郎の真っ直ぐな気性を良く理解していた。
『ともあれ長十郎を探さねばならぬが・・・』
ところが長十郎は探すまでも無かった。
左膳の許を辞した右近が廊下を進むと直ぐに、大勢の男たちの話し声が聞こえてくる。
その中でも一際良く通る声に、右近は確かに聞き覚えがあった。
そのまま声のする方に歩を進めると、果たして十人近い若い藩士が大声で談議している。
襖は開け放たれているため、中の様子は外から丸見えだ。
『ふむ、あれが件の直訴衆に違い無かろう』
談議している面々の正体に見当を付けた右近は、何の躊躇も無く、その場にずかりと押し入った。
「邪魔するぞ」
その場にいた一同が目を丸くして絶句する中、目当ての人物を見付けた右近は声を掛ける。
「久しいな、長十郎」
次回は4月23日(金)20時に公開予定です。




