表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/39

第十五話 【伊崎長十郎】

「こちらも(こと)(ほか)難儀(なんぎ)しておる。」


難儀(なんぎ)とは如何(いか)なる?」


「実は此度(こたび)の事で幕閣(ばっかく)直訴(じきそ)するなどと息巻く者が江戸詰(えどづ)めの中に()るのだ。」


幕閣(ばっかく)直訴(じきそ)!?、それはまた無謀な・・・」


左様(さよう)、幕府から(くだ)されたご沙汰(さた)に対して直訴(じきそ)すると言うならともかく、何一つ決まっていない今、直訴(じきそ)(およ)ぶなど、百害あって一利なしではないか。」


御意(ぎょい)。そこまで見通されていながら何故(なにゆえ)()めないのですか?」


「そうしたいのは山々なれど、頭ごなしに(おさ)えつければ、(かえ)って反発を強めて本当に直訴(じきそ)(およ)ぶかもしれぬ。そうなっては()()()の苦労が水の泡だ。更に困った事には、若い藩士の中に直訴(じきそ)に賛同する(やから)が日増しに増えているのだ。ここでもし直訴衆(じきそしゅう)を厳しく処断すれば江戸詰(えどづ)めの意見が真っ二つに割れてしまう。」


「確かに難儀(なんぎ)ですな・・・」


「おまけに直訴衆(じきそしゅう)首謀者(しゅぼうしゃ)は、直訴(じきそ)が聞き入れられなければ、江戸城の大手門で腹を切るなどと()()()()事を申しておる。それで当人は満足かもしれぬが、そんな事をされたら福井藩の改易(かいえき)は決定だ。全くどうにも手に負えぬ。」


左膳(さぜん)は心底困り果てたという表情で、右近に窮状(きゅうじょう)(うった)える。


「ところで直訴衆(じきそしゅう)首謀者(しゅぼうしゃ)とは誰なのですか?」


徒士(かち)組の若手でな、名を伊崎(いさき)長十郎(ちょうじゅうろう)と申す。」


「!!」


その名を聞いた右近は驚愕(きょうがく)した。


伊崎(いさき)長十郎(ちょうじゅうろう)


背は右近よりも頭一つ高い偉丈夫(いじょうふ)で、新影幕屋流(しんかげまくやりゅう)免許皆伝(めんきょかいでん)剣豪(けんごう)でもある。


長十郎とは国元での家も近く、遠縁にあたる伊崎家と椿家は親の代からの付き合いである。


右近は長十郎(ちょうじゅうろう)元服(げんぷく)前より何かと面倒を見ており、長十郎(ちょうじゅうろう)もまた七つ年上の右近を兄のように(した)っていた。


そして右近が江戸で真っ先に助力(じょりょく)を頼もうと考えていたのが、他ならぬ長十郎(ちょうじゅうろう)であったのだ。


右近は自信に満ちた口調で左膳(さぜん)注進(ちゅうしん)する。


「ご家老、(それがし)伊崎(いさき)長十郎(ちょうじゅうろう)を良く存じております。此度(こたび)の件、(それがし)にお任せ頂きたい。」


「それは誠か!?是非頼む!」


左膳(さぜん)の返答は、もはや懇願(こんがん)に近かった。

用語解説

徒士(かち)

合戦(かっせん)の際に馬ではなく徒歩で戦う武士の事


偉丈夫(いじょうふ)

心身共に優れた男の事


新影幕屋流(しんかげまくやりゅう)

新陰流を()とする福井藩伝統の剣術流派の事


次回は4月16日(金)20時に公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ