第十三話 【本丸と西ノ丸】
江戸城本丸御殿・御座之間
江戸城本丸の中奥に位置するそこは、将軍が日中政務を執る場所であり、限られた者しか立ち入りを許されない江戸城の心臓部である。
「越前守が身罷った!?」
本丸老中の水野忠邦から報告を受けた将軍、徳川家慶は驚きの声を上げる。
「越前守は齢十九ではないか、何かの間違いではないのか?」
「昨日、越前福井藩より正式な届けがございました。間違いありません。」
「越前守に子はいないはず。継嗣は誰ぞ?」
「それが越前松平家には継嗣がおりません。」
「誠か!?」
「御意、それ故定法に従えば越前松平家は家名断絶の上、福井藩は改易となります。」
「左様な事、承知しておる!」
渋い表情で暫し思案した家慶は不愉快そうな声色で忠邦に命じる。
「此度の件、余の一存では決められぬ。西ノ丸に知らせよ。」
「御意」
「西ノ丸」とは、江戸城西ノ丸の主である大御所、徳川家斉を指している。
この頃、幕府は二重権力構造になっており、家斉は将軍職を家慶に譲ったものの、大御所として実権を握り続けている。
そのため幕政の中心はあくまでも西ノ丸の大御所と、その側近たちであり、後に老中首座として天保の改革を主導する水野忠邦も、この時は未だ自ら幕政を動かす力は無い。
こうして越前松平家の処遇については、西ノ丸に判断が委ねられる事になった。
次回は4月2日(金)20時に公開予定です。




