11章
僕は自転車をこぐ。
一心不乱にこぎまくる。
学校からならば、下手にバスを待つより自転車の方が早く着く。
花火の下に早く着く。
本当はこんなに急ぐ必要はないのかもしれない。
春日井さんは今日花火のお見舞いに行くと言っていたがしかし、誰かと一緒に行くとは一言も言っていなかったわけで、だから花火が春日井さんと秋水先輩のツーショットを見ることになるとは、花火が真実を目の当たりにすることになるとは限らない。
だからきっと、この不安は、この恐怖は取り越し苦労なのだろう。
この胸を締め付ける感覚は、きっと杞憂のままに終わるのだろう。
そうあってくれと願いながら、信じながら、しかし自転車をこぐ足、その勢いを一切緩めはしなかった。
脇腹の痛みを無視し無理やり空気を肺に送り、僕は進んで進んで進んで進んだ。
眼前に先日見た真っ白な病院が現れる。
あの日とは違う、夕日に焼かれた茜色を映していた。
僕は自転車を乱暴に停めると花火の病室に急ぐ、病院内も走りこそしないものの出来る限りの速度で急いだ。
あと少し、あの曲がり角を曲がればそこが花火の病室だ。
まだ、春日井さんたちには遭っていない。まだ、まだ、まだ。
僕は曲がり角を曲がる、前に何かにぶつかった。
「きゃっ」
僕がぶつかったそれは、そんな可愛い声を上げた。
「もう、何?
あ、冬木君じゃない。駄目だよ、曲がり角でそんなにスピードだしちゃ。」
「か、春日井さん。ごめん。」
それは春日井さんだった。春日井桜さんだった。
そして、
「ん?冬木?冬木雪人か。お前は何故ここに居る?」
秋水先輩も。
「秋水先輩こそ・・・何でここに?」
「俺か。俺は部活の後輩の見舞いにな。」
話す僕と秋水先輩の間に春日井さんが入ってきた。
「冬木君は花火の幼馴染なんですよ、落葉先輩。」
「ほう、そうだったのか。なるほど、ではお前も俺達と同じ目的という訳か。」
「じゃ、じゃあお二人は、お二人で花火の病室に。」
解り切っていることを僕は聞いた。
「ああ、そうだな。」
「うん、そうだね。」
解り切った答えが返ってきた。
ああ、解っていたさ。そんなこと解っていた。
二人はなんというか、互いの性格上そんなにべたべたしていないし、ラブラブしているようにも見えない。
だけど、だけど僕でも解ってしまう。
この二人は恋人同士なのだと。付き合っていて好き合っているのだとどうしようもなく解ってしまう。
「それにしても、解っていたけど、花火本当に眠ったままなんだね。」
そう春日井さんは、目を伏せて言った。
そうだ、花火だ。
僕ですら解ってしまう二人の関係を花火が解らないはずがない。
春日井桜を愛し秋水落葉を愛する花火が、この二人のことを誰よりも好きでいた僕の幼馴染が、気づかない筈がない。
「じゃあ、僕は花火の所に行きます。」
気になった、心配だった。この二人を見た花火が。
「わかった。じゃあまた学校でね。冬木君。」
「じゃあな。」
二人は僕の反対側に向かって歩き出した。
親しそうに、寄り添うように。
ああ、やめてくれ。
そんな姿、見せないでくれ。
そんな姿をあいつの前でしていたのかと思うと。
花火の前でしていたと思うと。
花火の親友と想い人がしていたと思うと。
僕はあなた達を
殺したくなる。
僕はそんな二人から目を逸らした。
そんなことより今は花火だ。
どんなことより今は花火だ。
すぐそこに花火がいる。
あの扉の向こうに花火がいる。
この扉の向こうに花火がいる。
僕は扉を開いた。前と同じく吐き気を催しながら。
そして、そこには花火がいた。
虚ろな目の花火がいた。
涙を流す花火がいた。
花火は僕に気づいた。
花火は僕に柔らかく微笑んだ。
僕は生まれて初めて花火の作り笑いを見た。
花火は口を開いた。
「ねえ、どうしよう雪人。あたし、あたし・・・」
花火はその笑みに戸惑いを浮かべながら、
花火はその涙に戸惑いを浮かべながら、
花火は言った。
「もう、生きたくないよ」
誰か、誰か頼むから教えてください。
僕は花火に、なんと言えばいいですか?
親友と恋人どっちを選ぶ?なんてありふれた質問ですが、しかしありふれてるだけに悩んでしまいますよね。
友情か恋慕か、選べと言われて選べるものでもないですし後悔しか残らなさそうな問ですが、僕なんかにしてみればこれほど簡単な問いもありません。
じゃあお前はなんて答えるんだ?って
そりゃあ
「どっちもいないので選べません」




