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HOLY WORLD  作者: (仮)
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魔女狩りのメシア④

震田は基地内事務棟に入るべく、セキュリティカードを取り出し、読み取り機にかざす。

ピッという電子音とともに入り口の扉が開き、四人が建物内に入り終わると、すかさず扉は閉まり施錠された。


日本軍基地には大抵、外門ゲートと基地内建物入り口にこうしたセキュリティドアが設置されている。

陸海空軍全てがほぼ、この二重セキュリティで不審者の侵入、出入りした人間の管理を行っていた。

それに加えて出入り口には監視カメラを設け、問題が起きた時の対処もされる。

勿論、これよりさらに厳しいセキュリティの場所もある。

航空母艦・国津神を建造していた造船所など、門外不出の機密を扱う機関には眼球認証、指紋認証、顔認証等を用いて、情報漏洩には細心の注意を払っていた。


ちなみに震田や午雷の持つカードは、前者の二重セキュリティドアを通る為のものである。

飛騨や川崎はさらにその一段上のセキュリティを通れるものを持っている。

本来、飛騨自身が国家機密であるので、この様に易々と色んな人間と接したり外出したりしないようにする為だったのだが。

妙な所でセキュリティ面がザルなのも日本らしいと言えば日本らしい。


二重セキュリティを越えた先の、事務棟の奥まった場所にある扉を川崎の持つカードキーで開けた。

事務棟に設けた飛騨の部屋である。

今回の様な有事の際、基地内で飛騨が安全に寝泊まり出来る部屋を以前から用意していた。

全ての攻撃を無効化する神風と言えど、術者の飛騨が眠っている間は発動しようが無い。

なので交戦中、攻撃が少し落ち着いた折を見ては、基地内でも特に安全なここで、しばしの休息を取っていた。


「じゃあ、俺らは医官(せんせい)呼んでくるから。

 川崎ちゃん、飛騨のこと見張っててね」

「畏まりました」

鍵のかからない医務室ではまた飛騨が抜け出すと思った三人は、この飛騨の部屋で治療してもらうことにした。

治療と言っても手の傷の包帯交換と点滴くらいなので、この部屋でも可能だろうとのことだった。

「念の為に飛騨のカードキー没収しておこうか」

震田と共に医官を呼びに行こうとしていた午雷が振り向く。

「いや、いくらなんでもそこまでしなくてもいいだろう。

 素直に大人しくしているさ」

「そんだけ信用ならないんだよ、お前の『大人しくしている』は」

不服そうな飛騨に、震田がため息をつく。

「まあいいわ。医務室は行って帰ってくるまで十分もかからないし。

 さすがにそのくらいなら飛騨も待ってられるでしょ」

まるで小さい子供かボケた老人を扱うような言い草で、震田は飛騨をからかう。

からかわれたことに微妙な表情をした飛騨と川崎を残し、震田と午雷は部屋の外へ出て行く。


「全く、人の事を何だと思ってるんだ。あいつらは……」

室内に用意されたデスクとセットで置かれている椅子に飛騨は腰かける。

川崎は備え付けられた冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、電気ケトルで湯を沸かして、お茶を入れる準備をしながら微笑んだ。

「みんな心配してるんです。中将のことを」

「……まあ、そうか。……そうだな。

 俺の力が使えなくなったら国防に差し支える」

「いいえ、ちがいます」

ケトルが蒸気を吹き湯が沸いたので、それをゆっくりと急須に注ぐ。

「みんな中将のことを想っているんです。

 『神風の飛騨中将』ではなく、一人の人間として」

大切な友人として、敬愛する上司として、一人の人間として皆、飛騨を好いているのだ。

その身を顧みず国を護ろうと剣を振るう姿を見た陸軍の者の多くが、一人の人間として飛騨を尊敬している。

それは神風の能力が理由では無い。

純粋なる飛騨の正義感と信念に心打たれた者なのだろう。


川崎は戸棚から茶碗と茶托を取り出し、デスクの飛騨の前に置く。

それを静かに見守りながら、飛騨はぽつりと呟いた。

「……なあ、川崎」

茶碗に茶を注いでいる川崎に、飛騨は問いかける。

「俺の力は、本当に皆を救えたのだろうか」

飛騨の言葉にふと川崎の手が止まる。

「飛騨中将……?」

躊躇いながら川崎は飛騨の顔を見る。

しかし少し俯いた顔は制帽のつばに隠れ、いつもの意思の強さを湛えた瞳は見えなかった。

だが、それでも隠し切れない悲しみが、痛いほどに伝わる。

「俺の風は中国軍の攻撃は……防ぐことができた。

 しかし、その代わりに別の犠牲を払うことになった」

魔法による副作用。

飛騨の神風と、インドの雷を使うウィザードの力によって引き起こされた自然災害。

それは戦いに関係のない多くの人間の命と生活を奪った。

この副作用のことは飛騨の耳にもすぐに入っていた。

勿論、飛騨も驚き、能力を使うことに迷いを感じた。

それでも神風を起こし、中国軍の攻撃からこの国を護るべく刀を振るうしかなかった。

「それは……仕方のないことですわ。

 誰もこんなこと予想できていなかったもの」

緑茶を注いだ茶碗を飛騨に差し出す。

その手の震えを隠すのに、川崎は苦労した。

「仕方ない。

 その一言で災害にあった者が納得するだろうか?

 ……しないだろう。

 俺の風は俺の意思で起こしたものだ。

 俺は、その者たちにどんな贖罪をすべきなのだろうか」

飛騨は己の両の手を見る。

諸籠手と包帯に覆われたこの両腕で掬えた願いと、掬えなかった願い。

救えなかった者たちを思うと、両手の怪我よりも重い痛みが胸にのしかかる。

「飛騨中将!」

川崎の高い声が飛騨を呼ぶ。

翳り曇る飛騨の表情に、川崎は陽光を取り戻そうと試みた。

「中将のお力で救われた人間もいるんです。

 救われた人たちのことも、忘れないで下さい。

 そして……どうか、これ以上ご自身を責めないでください」

連日、様々な国のマスコミや野次馬からの問い合わせや苦情で、飛騨の力に対する悪意を浴びていた川崎は、彼の気持ちを痛いほど感じている。

生真面目な飛騨が、小手先の慰めで心癒されるはずはないとわかっている。

それでも言わずにはいれない。

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