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HOLY WORLD  作者: (仮)
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魔女狩りのメシア②

隼翔や瑞岐たちが帝江を倒し帰国して十日ほどたった頃。

東京都練馬区にある陸軍本部も俄かに騒がしくなっていた。


「聞いたか?中国の話」

「ああ、北京のクーデター」

「そ、あれからぴたっと大陸からの攻撃止んだだろ?」

先程届いた事務用のコピー用紙やインクトナーの箱を台車で運びながら、震田と午雷は雑談する。

陸軍でも中国北京襲撃の噂でもちきりだった。

しかしそれが日本国海軍とイギリスの協力のもと行われた、中国のウィザードの殺害が目的だったことは流石に伏せられていた。

仔細を知っているのは一部の人間だけである。


「まー、なんにしろよかったよ。

 あのまま毎日弾道ミサイル撃たれちゃ飛騨の身体が持たないし」

震田はいつもの調子の良さそうな言動で、隣のやや不愛想な相棒に笑いかけた。

呑気な友人の態度に呆れながらも、午雷は話に乗ってやる。

「そういえば飛騨はまだ医務室か?」

「んんー、まー、本当はまだ医務室に居てもらいたいんだけどな」

最近の無理が祟って体調の優れなかった飛騨は、しばらくこの練馬基地内の医務室に入院のような形を取っていたのだが。

「……そういう奴だよな、飛騨は」

十八歳の時から同じ陸軍に従事する同期の顔を思い浮かべて、二人はため息をつく。


陸軍のウィザード、飛騨龍彦中将は風を操る力を持つ。

愛刀を触媒に繰り出す神風は、日本に降り注ぐ数多の攻撃を無効化する。

今回の戦いにおいても飛騨は連日連夜止まぬ中国からの攻撃を、殆ど休む暇なく薙いでいた。

周りの人間が、もう少し休憩を取るよう再三言って聞かせたが、無駄だった。

立つこともままなくなって一日医務室で介抱されていたのだが、少し回復したら直ぐにまた愛刀・天之尾羽張を持って外へ出て行く。

その繰り返しだった。


そしてやっと、中国からの攻撃の手が緩んで来た昨今、飛騨に休息の時間が訪れたと思ったのだが。

震田は昨日の出来事を思い出しながら苦笑する。

「大変だったのよ、災害救助に俺も行くって言って聞かねーからさ。

 昨日必死に川崎ちゃんと二人で引き留めてたの」

中国からの攻撃が止んだと思ったら、今度は災害が日本を襲った。

飛騨とインドのウィザードが引き起こした異常気象による災害である。

その救助が陸軍でも始まっていた。


今の日本国陸軍は通称『盾の陸軍』。

歩兵や戦車が活躍していた前時代の戦争とは違い、現在の戦争の攻撃主力は航空機。そして弾道ミサイルだろうか。

航空戦のプロである空軍はもとより、航空母艦を保有する海軍が『矛』であり、陸軍は攻撃よりも守りに徹する『盾』の役割を担う。

他国と海を隔てた島国ならではの役割分担である。

つまり陸軍は他国からの攻撃や災害救助など、あらゆることから国民を護ることが責務だ。


少年の頃から『盾の陸軍』として鍛えられ、そして特殊な能力を持つ故に高官の地位が約束されていた飛騨は、誰よりも責務に忠実であろうとした。

その性格を良く知る同期であり友人でもある震田と午雷は、今回のことで滅入っているだろう彼を心配していた。

「やっぱり飛騨は気にしてるのか?」

「……たぶん、相当」

護国の為に倒れるまで力を使った飛騨が、自身の魔法の副作用により苦しむ人間が出たことに、酷く心を痛めたのは想像に易い。

「クソがつくほど真面目だからなー」

だから回復していない身をおして救助活動に参加しようとしていたのだろう。

「真面目。そうだな。震田と違ってな」

「うっせえ」

そんな事を話しながら目的地に着いた二人は、荷物の届け先である事務棟の一室の扉を開けた。


丁度その時。

室内に鬼気迫る女性の大きな声が響いた。

「いい加減にしなさい!しつこいですよ!

 何度も電話かけて来られても答えられないものは答えられません!」

電話相手に怒鳴りつけ、即座に電話を切る。

陸軍内務の女性用の制服をを着たその女性は、大きくため息をつきながら肩上で切り揃えた黒髪を、苛立たし気にかき上げる。

「……どしたの、川崎ちゃん」

その様子を扉の横で見ていた震田は、恐る恐るその女性に声をかける。

女性は……陸軍飛騨中将の補佐官である川崎燕は、入室してきた震田たちを睨む。

彼女の眼光の鋭さと怒りのオーラに、震田は話しかけたことを少し後悔する。

「最近しつこいのよ、マスコミが。

 飛騨中将のことを探るために、毎日何度も連絡してくるの。

 これじゃあまともに業務もこなせないわ」

「ああ、なるほどね……」

「しばらく外線の電話線、引っこ抜いておこうかしら」

苛々しながらも川崎は、コピー機の横へ行って空いた段ボールなどを片付け始める。

二人の運んで来た新しいインクトナーやコピー用紙が入るスペースを確保するために。

ヒステリックになっている川崎を刺激しないよう、彼女の横で二人は静かに荷物を収納していく。


「ん?」

空になっていたA4用紙をコピー機にセットしようとした午雷が、溜まったままになっていたFAXに気付いた。

コピー機はFAXの送受信機能も備えた複合機なので、受信したFAXも排紙口から出てくる。

それが溜まっていたので何気なく取り出し、まとめて川崎に渡そうとしたのだが、目に入ったFAXの内容に午雷は思わず驚きの声を上げる。

「なんだこれ……」

「ん?どーした?」

取り出したFAXを見て固まっている午雷に、震田が横からそれを覗く。

震田もその紙に書かれている内容を一目見た瞬間、顔が強張る。

おもむろに午雷と震田は机に用紙を広げ、他のFAXの内容も見ていく。

そこには様々な言語の新聞記事の一面が写されていたのだが、違うのは言語だけで内容はほぼ同じものであるようだった。


『此度の東アジア全土における異常気象による災害は、日本軍の気象を操るウィザードの魔法に起因する』


記事の内容を要約するとこういうことだった。

「なんでこんなことが……」

午雷が不思議に思うのも無理は無い。

他国は勿論、自国民にすら飛騨の存在も、その能力も公にはしていない。

日本軍に所属するウィザード、瑞岐と飛騨の存在を知る者はごく一部である。

なのに何故、ここまで多くの国のマスコミが『日本軍の気象を操るウィザード』の存在を確信しているのか。

そしてどの新聞記事の日付も全く同じ、丁度隼翔や瑞岐たちが北京で帝江と対峙していた日であった。


「さっきの電話もそのことを聞いてきたの。日本のテレビ局が。

 見てないけれど、メールボックスもそのことでパンパンになってるはず」

FAXを見ながら立ち尽くす二人に、川崎が声をかけてきた。

彼女の声は心底うんざりしているようだった。

「こんなFAXを送り付けてきて『世界中でニュースになっているこの件、陸軍はどうお考えですか』。

 『陸軍はこの件に関与しているのですか』『責任はどこにあるのですか』ですって。

 これじゃあまるで犯罪者呼ばわりじゃない。

 飛騨中将は、あんなにボロボロになるまで剣を振っていたのに。

 この国の人間を守る為に、あんなに酷く消耗されたっていうのに」

日中の戦いのさなか、飛騨の一番近くで彼のサポートをしていた川崎は、悔しさに瞳を潤ませる。

「飛騨中将だって、こんな災害が起こることなんて知らなかった。

 現状の被害に一番心を痛めてるのは飛騨中将なのよ」

震田と午雷は川崎の様子に言葉を詰まらせる。

少し戸惑いを含ませながら、震田が川崎の肩を叩く。

「わかってる。

 多分、俺たち三人が一番飛騨のことを知ってるし、信じてる。

 ……一体誰が、こんなこと言い出したんだろうな。

 飛騨の能力のこと知ってるのなんて俺らと、上の人らだけだろ?」

「なに?スパイでもいるっていうの?」

「いや、それは……わかんないけど」

スパイが居るというなら、そのスパイを殺しに行きかねない気迫で川崎は震田に詰め寄る。

「何にしろ、まだまだ油断できないな。

 飛騨のことがどこから漏れるか分からないし、俺たちも慎重に行動しないと」

そう言いながら、午雷は新聞記事のFAXをシュレッダー行きの紙ゴミの箱へ全て投げ入れる。

震田が「いいの?」と言いたげにゴミ箱と午雷の顔を見るが、午雷は黙って頷く。


その時、ピロロロ……と電子音が鳴る。

室内の電話に着信があったようだ。

「何よ、またマスコミ?!」

「ちがうちがう、内線だよ、川崎ちゃん」

震田は電話の着信音に激高する川崎をなだめ、電話のナンバーディスプレイを覗く。

電話を指さして、部屋の主である川崎に電話に出るよう促す。

まだ少し不機嫌そうに川崎は受話器を取る。

「はい、飛騨中将補佐の川崎です。

 ……え?飛騨中将?

 中将でしたら、そちらに……医務室に……」

電話の相手と話していた川崎の顔色がみるみる青白く変わる。

「え?!医務室を脱走した?!」

川崎の叫び声に震田と午雷も驚いて振り向く。

「ええ……」

「何やってんだ。あいつ……」

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