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HOLY WORLD  作者: (仮)
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赤の王⑧

梨花は地下シェルターの一番奥へ追いやられるように避難した。


施設の外観を映す監視カメラがいくつかあるのだが、地下シェルターに備え付けられていたモニターからそれらを見ることができた。

何もできずに梨花はただ、その映像を見つめていた。


雲間から突如現れた黒い戦闘機。

それがどんどん近付いて来て、何か光を放ったかと思った次の瞬間、モニターの映像は途切れた。

映像が途切れたのと同時に、梨花の居るシェルターもろとも研究施設は閃光と轟音の洪水に飲まれた。


自身もそれに飲まれる時、梨花の唇は小さく動いた。

「おかあさん……」




ビリビリとした衝撃に操縦桿を握る腕が痺れる。

爆発の衝撃に揺れながらも、機体は前に、東へと進む。

これから訪れるであろう航空格闘戦に、隼翔は気を引き締め、燃料や残弾数の確認をする。

そんな隼翔の感情など知りもしないエリーは、膝の上で楽しそうに隼翔に話しかけて来る。

「やったわ!エリーの魔法はどう?グリズリー!」

「下噛むぞ。ちょっと黙ってろ」

はしゃぐ王女を諫め、隼翔は真っ直ぐ日本海目指して飛ぶ。

「あっ!見て、グリズリー!」

「今度はなんだ!」

隼翔は舌打ちしながら王女に問う。

警告を無視して構わず騒ぎ続けるエリーは、自分たちの機体の下方から迫り来るものに気付いた。

「カラスよ!」

エリーの声と共に、独特のプロペラの音が聞こえてくる。

深い緑色の翼に描かれた日輪。

見慣れた航空機の出現に、隼翔も目を見開く。

「八咫烏!」

それは紛れも無く、瑞岐の八咫烏が変化した零式艦上戦闘機だった。

「帝江は始末したわ!作戦は成功よ!!」

エリーが嬉しそうに声と拳を高く上げる。

研究施設爆破の後、深い緑色をした零戦が飛んだら作戦成功のサインだ。

張が傍受している武警内の情報から、帝江の死を確実に確認できたらこうする約束だった。


帝江はもういない。


帝江がいなければ瑞岐たちと通信を繋げられる。

戦闘機の全ての通信をオンにすると、すぐに高崎から無線が繋がった。

『王女サマ!隼翔ちゃん!聞こえる?!』

頭にキンと来る甲高い声が響いた。

「ああ、もうちょっとボリューム落として喋れ、クソジジイ」

いらつく隼翔のひざの上で、エリーは無線の発信情報から瑞岐たちの居場所がばれる心配をした。

「無線なんか繋げて大丈夫なの?カオルチャンス」

どうやら彼女は『薫ちゃん』を間違えて覚えたらしいが、今はそんなことを訂正してる場合じゃない。

少々のタイムラグの後、高崎から返事がくる。

『ヘーキよ。これ、武装警察本部の無線を介してるから、アタシらの場所はバレないわ』

「えらくラグがあるな。大丈夫か、管制官さんよ」

通常の無線よりも数秒の開きを感じる。

『大丈夫はコッチのセリフよ!

 さっきからアンタたちの尻を追っかけてきてるのが居るわ、三機。

 たぶん空軍ね。それから……』

高崎の無線を遮って爆発音が響く。

対空ミサイルが発射されたらしいが、隼翔の機体を庇うように八咫烏がその身に被弾し、墜ちていった。

『やっぱり、えらくタイムラグあるわね』

いつの間にかJ-31を取り囲むように、八咫烏の航空隊が集って来た。

次々と集まる八咫烏に覆われて、隼翔たちの乗る機体が隠れていく。

「木を隠すなら森の中ってか?」

「体張ってるわね。CrowMancer」

複雑な航空格闘戦のできない八咫烏で、彼らを守るなら、壁になるのが手っ取り早い。

だが、これだけのカラスを遣うのは相当に体力を消耗することだろう。


逃げ切るまでの間、瑞岐のスタミナ切れを起こす訳にいかない。

何か良い案はないかと高崎は考えた後、無線に語りかける。

『隼翔ちゃん!北京市街を低空飛行で移動しなさいな!

 首都のど真ん中の市街地なら流石に奴らもパンパン撃ってこれないハズよ!』

「オーケー、りょーかい」

高崎の言葉を聞くや否や、隼翔はグンと急降下する。

そして北京のビル群の間を縫うように翔ぶ。

これには追い付いた中国空軍も、八咫烏を飛ばす瑞岐も悲鳴を上げた。


『なんてところ飛ぶんだよ!

 追い付けないじゃないか!!』

思わず瑞岐が文句をつける。

「文句はそこのクソジジイに言えよ」

ビルの壁面を、ほぼ垂直に通り抜けながら背後の中国空軍機を視る。

中国空軍は隼翔や八咫烏めがけて機関砲を放つが、案の定ビルに誤爆する。

隼翔たちを狙った筈の弾丸は吸い込まれるようにビルや街を破壊して行き、北京市内は逃げ惑う人々で混乱した。


「きゃー!デスティニーランドのアトラクションみたい!」

目まぐるしく三百六十度回転する機内で、エリーは実に楽しそうに歓声を上げる。

「エリーもガトリング砲撃ちたい!」

「アホ言うな。こんなとこでお前の魔法使ったら北京が焦土と化すわ」

エリーの魔法が吹き飛ばした研究施設は空から地面が見えない程に抉られ、建物は微塵も形跡を残していなかった。

それをこんな市街地でやれば、とんでもない被害になってしまう。


やがて中国軍の航空機が次々と集まってくるが、ビルとビルの細い隙間を駆け抜けていく隼翔の機体を追えず、上空で右往左往する者が大半である。

そうして上空で固まっている所を、ふいに八咫烏が爆撃して、数機が羽根や胴を撃ち抜かれ墜落していった。

果敢にも隼翔を追って来た者は、追走すること叶わず、派手に機体をビル側面に擦り爆発した。


やがて徐々にビルが減り、変わりに海が見えてきた。

中国大陸と朝鮮半島の間にある黄海だ。

ここまでくればあともう一息。


しかし、ビルの森が消えたことで、追っ手の攻撃が増した。


隼翔の機体は撤退の為、一番前を飛ぶ。

眼前に現れた敵は隼翔の攻撃でも堕とせるが、後ろへの攻撃は八咫烏に頼むしかない。

だが恐らく、そろそろ八咫烏の射程圏外が近い。

ならばとっとと日本海へ、日本の領海へ逃げるしかない。


隼翔は機体の出せる最高速度を出す。

ジェットエンジンが焼ききれそうな悲鳴を上げながらも、飛ぶ。

「頼むから、エンジン爆発とかやめてくれよ」

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