表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HOLY WORLD  作者: (仮)
73/93

071 赤の王⑤

「……は?」

隼翔のみならず瑞岐も気の抜けた声を上げ、二人でエリーの顔を見る。

そんな二人を意に介さず、王女は両手で茶器を持ち、ふうふうと冷ましながら呑気に茶を飲む。

「楽しみだわ。ステルス戦闘機なんて、初めて乗るもの」

ワクワクを押さえきれない、という風に、エリーはうっとりした表情で空想に耽る。

「いやいや、ちょっと待て!」

隼翔は思わず立ち上がり、机を強く叩いて抗議する。

「まさか、このチビ助を乗せて飛ぶのか?!」

エリーに人差し指を突き付け、高崎に問うが、高崎は素知らぬ顔でヘアスタイル?を整えている。

無礼な隼翔には、すかさずジョンが訂正する。

「チビ助ではなく、エリー王女です」


そう。この幼い少女は一国の王女だ。

やんごとなきお方をゲリラ戦を仕掛ける戦闘機に乗せて戦う?

王女に何かあったら大変な国際問題。

問題は勿論それだけではない。


「冗談じゃねぇ!ヘリやセスナじゃねーんだぞ?!」

一般人でも搭乗できる航空機と、戦闘機では搭乗者への体の負荷が桁違いだ。

戦闘機に乗る為の訓練もしていない人間が、航空戦を繰り広げる機体に乗って一緒に戦うなど無茶である。

特に隼翔はアクロバットな動きで敵を翻弄する戦法を得意とする。

そんな隼翔の機体に同乗するなど、普通の人間にはそもそも無理だと彼は思っている。

「前に試しミズキ乗せて飛んでみた事あんだよ。二人乗りの練習機で。

 空母の上じゃなくて、わざわざ風の穏やかな日に陸から飛んでやったんだよ。

 なのにコイツ、離陸したら秒で吐いて気ぃ失ったんだぞ?」

「……うん。やっぱり戦闘機って訓練した人じゃないと乗れないものなんだね」

嫌な記憶を思い出し、瑞岐は遠い目をする。

そう、少し前だ。

航空戦を繰り広げるパイロットの動きというものを体験して、八咫烏たちの戦法に生かせないかと思い、隼翔に頼んで乗せて貰った事があった。

が、結果は隼翔の言うとおりで、すぐに気絶したので、何の成果にもならなかった。

「念の為に他所の隊の練習機借りといてよかったぜ。

 自分の乗る奴にゲロぶちまけられたら堪ったもんじゃねえ」

「……アンタらサイテーね」

高崎が突き刺す様な眼で二人を睨む。

人様の機体に吐しゃ物を盛大にまき散らして来た事に、元パイロットとして軽蔑する。

「ち、ちゃんと掃除はしてきたよ!!」

「そーゆう問題じゃねーわよ」

瑞岐は慌てて弁明した後、それかけた話を元の軌道に戻す。

「そういう事だからエリー、君の作戦は面白いと思うけど、非現実的だよ。

 もっと他の方法を探した方が良いと思う」

「あら、どうして?

 エリーはエアファイターに乗れないとでも?」

キョトンとした顔で、少女は少年に聞き返す。

「そう思っているなら、無礼にも程があるわね。

 この私がそんな事も考えられないと思っているのかしら」

威風堂々と胸を張る王女に、今度は瑞岐がキョトンとする。

エリーの代わりにジョンが答えた。

「エリー王女は、英国空軍、戦闘機乗組員用の適性検査を受けています」

ジョンの言う戦闘機パイロットの適性検査とは、新人パイロットたちを航空機に乗せて、搭乗時の身体への負担を経験させるもの。

実践ほど激しい動きでは無いとはいえ、未経験者には身体への負荷が激しい為、嘔吐する者、気絶する者が絶えない。

「そうよ。去年、新米さんたちと一緒に乗せてもらったの。

 急に上がったり下がったり、回ったり、すごく楽しかったわ!」

「王女の仰る通り、同時に受けた誰よりも実技検査を平然とこなされていました」

「ウソだろ。マジか」

二重の意味で隼翔の顔は引きつる。


「え……っと、じゃあ、僕は……?」

おずおずと瑞岐が自身の役割を尋ねる。

「隼翔ちゃんの護衛と囮、あとは連絡係かしらね。

 レーダーやらに反応しないとはいえ、アンタの零戦は目立つから囮にピッタリなのよ。

 それに八咫烏は色んな機体に変えられるデショ?

 烏の種類の変化を使って、アタシから隼翔ちゃんに指示を出す手伝いをしてちょーだい」

高崎はあっさり答えた。

「え、ええ?!」

顔と両手を横に振って瑞岐は要求を断ろうとする。

「か、簡単に言うけど、ハヤトの護衛なんて僕には無理……」

瑞岐の言葉を遮って、張が椅子から立ち上がる。

そして頭を下げる。

「お願いします、成瀬大佐。そして高山少尉」

その様子と言葉に、全員が押し黙る。

中国人が頭を下げるということは、滅多にあることではない。

この国では首を垂れるということは相手が親か、尊敬に値する年長者か、はたまた神への祈願の時だけだろう。

張が日本の礼節に合わせた、それだけではなく、彼の強い意志によるもの。

「私は。いいえ、私たち反王派はこの戦いに命、かけています。

 生まれ育った大切な故郷を、王の支配で、

 帝江の歌で麻薬中毒にされるは、これ以上は絶対に許さない。

 それに王は日本まで手に入れようとしている。

 だから貴方たち協力してもらう意味、たくさんあります」

ゆっくりと頭を上げ、張はさらに力強く熱弁を振るう。

「まだ王に手が届く、今、王を倒さないといけない。

 それしないと、王はもっと大きな力、手に入れる。

 王は世界最大のマフィア『カオス・エデン』と手を結ぼうとしている。

 中国が『カオス・エデン』に飲まれたら、アジアも中米や南米のようになる……!」

聞き覚えのある組織名に、隼翔と瑞岐の顔色が変わる。


カオス・エデン。


以前、隼翔を半殺しにした不死の魔女、エンジェルが幹部を務める組織。

中米を核とする巨大マフィア。

これまで幾度と無く小細工を仕掛けて来てはいたが、成る程、此度の不自然な日中開戦、裏で糸引くのはマフィア。

アジアの二大国が戦争となれば、アジア全体が不安定になる。

そこにつけこむ気だろうか。


皆の考え込む顔をよそに、小さな中国茶器に入っていた全ての茶を飲み干し、高崎は一息つく。

茶器をテーブルに置いてから隣にいる二人に視線だけ送り、にやりと笑う。

「危険極まりない任務だけど、リターンも、どデカいヤマよ。

 あの赤城が、大事に籠の中で飼ってた瑞岐ちゃんを送り込むって、よっぽどよ」

隼翔と瑞岐はここで初めて、この作戦の考案者が誰か知る。

「うふふ、エリーはそんなことどうでもいいけど。

 でも楽しいことがしたいから協力してあげるんだから。

 しっかり王女様を守って頂戴ね。ガーディアンさんたち」

心底楽しそうに、無邪気に、エリー王女が笑う。

それを後押しとばかりに、高崎は決断を迫った。

「さ、腹くくんなさい。

 ここ一番の大勝負、失敗は許されないわよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ