070 赤の王④
「そ。ならいいわ。
ああ、それから、隼翔ちゃん。
アンタ、ステルス戦闘機乗ったことある?」
「は?」
やけにあっさりと話題を変えてくれる。
かなり大事な話じゃなかったか?と思いつつも、隼翔は素直に次の問いにも答える。
「あー……、アメリカに居た頃、F-35は触らせて貰った事あるけど……。
実戦で乗った訳じゃねぇし、今はもう型落ちの古い奴だぜ?」
「F-35?……丁度いいですね」
隼翔の言葉に答えたのは、意外にも張だった。
「私たちが用意出来たのは、J-31という古い型の中国製ステルス戦闘機です。
中国軍が不正にマフィアに売ったの、武装警察部隊が押収しました。
その責任者、私の仲間です。
秘密で処分した事して、保管してました」
張の言葉に、高崎が付け足す。
「中国軍のステルス機、J-31はね。
米軍のF-35をパクって作った、なんて言われてんの。
だからその二種の機体は性能も操作もソーックリ。
F-35に搭乗経験があるなら、すぐ乗れるでしょ」
こいつら、さも当たり前のように、まともに操縦したこともない戦闘機に乗せて戦わせる気でいやがる。
隼翔は不快感を露わに、テーブルに肘を付き、顎を乗せる。
「あのな、クソジジイ。
いくらソックリでも一朝一夕で乗りこなせるかよ。
F-35だって実戦じゃ乗ったことねーつったろ?
おまけに今回は管制官の指示もねえ」
こんなクソみたいな条件で戦わせるんなら、せめて乗り慣れた機体くらい用意しろ。
皆まで言わず、高崎を追い払うように手を振る。
「それを何とかするためのベテラン教官なら目の前に居るじゃないのヨ」
「あ゛?」
振っていた手に生暖かい感触。
見ると、隼翔の手の平にすっぽりと収まるように、高崎の寂しい頭。
目を合わせたらば、不毛地帯の下にある瞳がギラリと妖しく光る。
なんだろう、この不快感。
隼翔の舌打ちに、高崎が吠える。
「アタシが何の為にここまで来たと思ってんのヨォーーー!!」
「うっせぇ!壊れたバイオリンみてーな声で喚くな!」
隠密行動中だということを分かっているのだろうか、こいつらは。
呆れながらも瑞岐が代わりに聞いてやる。
「たかさ……薫……さんは、現役パイロット時代はステルス機乗りだったんですか?」
「そーよ!!それも、米軍払い下げのF-35をね!」
「ハヤト、それなら丁度いいじゃないか。
薫……さんに教えて貰えば、ハヤトならすぐ乗れるようになるだろ?」
「あーのーなー……」
ガリガリと頭を掻きながら隼翔は反論する。
「だから、せめてオレ一人ならな!
管制制御も無しにカラスの護衛なんか出来ねぇっつーんだ」
機体に関しては、それしか選択肢が無いのだろう。
ならば作戦を何とかするしかない。
「そーよ、アンタ。自分の身は自分で守れるんでしょ?」
高崎が首を九十度に捻って顔を覗き込んで来る。
仕草がいちいち癇に触る。
「だから、それで充分だって言ったじゃない」
「はぁ?」
「アンタは今回、守られる側。
……て、コトだったわよね、王女サマ?」
間近にあった高崎の顔が、ひょいと離れ、大人しく座っていた少女を見やる。
少女は暇そうにぷらぷらと足を動かしてたのを辞め、こっちを見てにっこりと微笑んだ。
「ええ、そうよ。
今回のガーディアンはCrow Mancer。
そしてナイトはエリー。
グリズリー、あなたは私のお馬さんよ」




