067 赤の王①
王は苛立っていた。
待てど暮らせど、中米マフィアに発注した空母群が一向に届かない。
追いかけ回す米軍を、奴らは振り切れぬ訳ではない。
聞いた話ではアメリカの持つウィザードを二人も始末した程度には戦果を上げている。
こちらが小日本相手に手を焼いている事を理由に、のらりくらりと納品を先延ばしにしているようにしか見えない。
このまま手付金をくすねる算段ならば、どう制裁を加えてやるべきか。
これだからルーズなラテン系は信用ならない。
中国人の次に信用ならない。
北京にある私邸の書斎。
その部屋の真ん中に鎮座した書類机、それとセットになった本革製の椅子に腰かけ、苛立たし気に貧乏揺すりをする。
少し落ち着く為に、手元にあった葉巻に手を伸ばす。
愛用しているハイブランドの葉巻。カチリとライターを鳴らし火を点ける。
深呼吸も兼ねて煙草の香りを深く吸い込む。
数回繰り返した後、手許にあった端末で昨今の戦況を振り返る。
国民が素面であったら、即刻この首が飛ぶレベルの損害だ。
しかし今のこの国の愚民どもは、魔女の歌に酔いしれ、真実を知ることは無い。
それに死んでいった兵隊たちもだ。
自身の枷となり得る人間の粛清も兼ねているので、死んでくれるなら願ってもない。
残りは有象無象の家畜たち。
この国では人など湧いて出てくる。
人死によりも、船や飛行機を新しく買い替える費用の方が悩ましい。
弾道ミサイルだって安い物じゃあない。
ああも簡単に撃ち落とされるなど……。
……そうだ。
それもこれも日本とかいう、ちっぽけな島国に居るウィザードたちの妨害のせいだ。
あのウィザードさえ始末してしまえば、それ以外の戦力など恐るるに足らぬ。
日本側に居るウィザード。
確認できるのは、戦場に現れた時代遅れのレシプロ機を操る者。
同じく、戦場の時代遅れな軍艦から強烈な砲撃を撃つ者。
そして日本上空に放たれたミサイルを、海上の我が艦隊を狙って嵐を嗾ける者。
……三人、もしくはそれ以上か。
日本に居るスパイに、もう少し金を弾んでやるか。
殺せるならば御の字。
だが、もし、梨花の歌を聴かせる事が出来たなら……。
それが出来たら最高だ。
中華の全てをこの手に出来る。
いや、それどころか世界すらも。
小煩いアメリカとやり合う力も、マフィアの小娘に泡を吹かせてやることも出来るかもしれない。
「……少し、手を変えるか」
独り言と共に右手の葉巻を灰皿に置く。
最近は少々、梨花の歌に頼り過ぎていたことは反省せねばならない。
そう考えつつ王は椅子から立ち上がる。
置いた葉巻の火が自然と消える頃、部屋の主はすでにそこには居なかった。




