055 帝江⑮
『敵艦がプリンセス・エリーの射程に入ったわ。
撃っても構わないかしら?』
各艦司令部に英国艦からの通信が入った。
国津神の隣を航行するイージス艦から司令長官の鳳が返答する。
「王女殿下、あまり接近しすぎないようにお願いします。
貴女に何かあっては女王陛下に顔向けができない」
『だいじょうぶよ。戦艦の超長射程ですもの。
あちらの艦対艦ミサイルがぎりぎり届かない所から狙うわ』
戦闘中でもエリーは優雅に玉座に腰を降ろし紅茶を飲んでいた。
無線の音声に時折、カチャカチャと陶器のティーカップが出す音が混じる。
「艦砲射撃……?ミサイルじゃないのか……」
エリーの声は、瑞岐にも届いていた。
王女の乗る戦艦に鎮座していた、時代錯誤にも見える大口径主砲。
ミサイルは自身の推進力で長距離を飛ぶが、鋼鉄と火薬の塊である徹甲弾はミサイル程の射程を得られない。
だからこその大口径か。
(エリー王女の力は、自分が引き金を引くことで発動する。
この時代にわざわざ戦艦大和級の大口径主砲を積んでるんだ。
ミサイルだと何か不都合でもあるんだろうか……)
瑞岐はエリー王女の能力を思い出し、考察する。
誘導ミサイルと違い徹甲弾は命中の精度にも欠けるはずだ。
それでも鉛玉に拘る理由は、弾丸の魔女の能力故か。
『Crow Mancer』
今まさに考えていた対象から直接話しかけられて、少し驚く。
『イギリスとニッポンのウィザードの力比べよ。
どちらが多くの船を沈められるか競争しましょう』
「エリー王女……」
ころころと無邪気な少女の笑い声に瑞岐は眉を寄せる。
「これはゲームじゃないんだ。中国軍だって人間だぞ。
できるだけ被害を出さずに撤退させるんだ」
瑞岐が窘めると、無線からティーカップを置く音と深いため息が聞こえた。
『甘すぎるわ。
貴方、昨日のラズベリーパイより甘いわよ。Crow Mancer。
そんなだからニッポンは侵攻されるのよ。
戦いたくないのなら、それこそ相手よりも大きな力を示しなさい。
優しい事と弱い事を区別できる人間は少ないのよ』
「そんなことは分かってるよ。
でも、被害の数を誇るのは違う。
それにやり過ぎて後からケチをつけられても日本が困るんだ」
『ふう……、わかったわ……。
じゃあ「アジアの平和の為にエリーは力を振るう」。
これで満足かしら?Sweet Little Boy』
「……エリー王女……」
まさか幼女に子供扱いされるとは思わなかった。
本当にわかったのか?という言葉を瑞岐は飲み込む。
位の高い軍人として色んな国の色んな人間と関わっていると、世界にはこんなにも狂人で溢れているのかと眩暈がする。
秩序を振りかざす人間も、混沌に身を委ねる人間も、突き詰めると一周して思考が似て来るような気すらする。
普通だとか中庸だとかを見失わないことが偉く大変な事なんだと実感した。
正直もう、どこが真ん中なのかなんて分からない。
正しい分岐点を自分は辿れているのだろうか。




