054 帝江⑭
隼翔は違和感を抱いていた。
敵機に。
敵航空機の動きの不協和音に。
軍人らしい規律の取れた編隊に見せかけてはいるが、どこか違和感がある。
基礎的な戦闘機隊の動きは踏襲している。
以前中米で戦っていたならず者たちのように、良心を持たない無法の戦い方とも違う。
隼翔は少し思考を巡らせていたが、国津神から発艦した別の小隊の航空機が被弾した報せを聞き、我に返る。
「チッ。めんどくせえ。考えるのは、こいつら全部撃ち落としてからだ」
勝ってから考えればいい。
隼翔は小隊の部下に細かく指示を出しながら、一機ずつ確実に敵戦闘機の背後を取り撃ち落としていく。
『高山少尉』
「なんだ班目」
ふいに入った無線に、旋回しながらも答える。
『敵空母から空対艦ミサイルを積んだ攻撃隊が発艦を始めた。
少尉の隊はそちらに向かって欲しい』
「りょーかい」
下界に広がる海を見渡すと、ちらほらと敵艦影が姿を現していた。
流石に空母は後ろの方に隠れたままだが。
敵航空機が粗方片付いたら、瑞岐の出番だろう。
国津神の戦闘機隊にはほぼ空対空ミサイルしか搭載していない。
堅い軍艦相手には八咫烏の攻撃頼りだ。
「岩本、坂井、菅野。残弾大丈夫だろーな?」
班目からの無線が切れると、小隊の部下たちに声をかける。
『問題ありません!』
部下たちの元気のいい返事を聞き、隼翔はレーダーで敵攻撃機の位置を確認する。
遥か雲の上を飛ぶエネミーの表示。
「飛ぶぞ、高度一万五千。トップスピード出してついて来い。
遅れた奴は帰ってから全員分飲み代オゴリだからな!」
『了解!』
まとわりつく敵機を振り払って、隼翔たちは雲の上を目指して上昇していく。
隼翔たちを追おうと背を見せた敵機を甲斐の山県隊が次々と撃ち落とした。
相模や駿府の戦闘機隊よりも圧倒的に少ない損害でスコアを上げる甲斐の猛者たち。
空高く翔け、雲を突き抜ける。
いつも隼翔はこの急上昇を『空に落ちていく』と表していた。
雲の下の薄青い空と違う濃紺の宇宙へダイブするような感覚。
コクピットはいくらか空調が効いているとはいえ、高高度の張り詰めた寒さが身を刺す。
空の闇の冷たさ、陽の光の眩しさは、世界のどこで飛んでいても変わらず感じる。
戦闘機のパイロットになって始めて知った。
パイロットにならなければ、知らなかった。
雲を形成する水蒸気で視界が曇りつつも、隼翔たちは敵攻撃機部隊を視界に捉える。
「デカい弁当持ってどこ行くんだ?てめーら」
重たげに対艦兵装を抱えた敵攻撃機。
汎用性の高い戦闘機と攻撃機の役割両方をこなす機体だが、空戦に特化した高山隊には歩が悪い。
と言っても、敵の数は中隊規模の十二機だ。
高山小隊は四機。
「三倍か。まあ余裕だな」
隼翔は不敵に笑う。




