053 帝江⑬
戦いが始まったのは、瑞岐たちの目に届かない遥か遠方での事だった。
第二機動部隊の戦闘機小隊と、青島を出発した中国海軍の戦闘機隊、どちらも索敵の為に飛び立ち、お互いを捉える。
見敵必殺。
両者の戦闘機から誘導ミサイルが放たれ、航空戦の火蓋が切って落とされる。
空母『駿府』から飛び立った航空隊長・岡部らは、敵方熱誘導ミサイルを欺く為の炸裂弾を打ち出す。
岡部隊長は回避行動を取りつつも、艦に無線を送り危機を報せる。
「今川司令!岡部航空隊、接敵!」
欺瞞の煙幕に惑わされなかったミサイルに、岡部隊の二機が被弾する。
それは炎と煙に包まれて墜落していった。
幸い二機ともコクピットの脱出装置が働いたらしく、しばらくして海上に二つのパラシュートが開いた。
両者が初手のミサイル攻勢を潜り抜けた頃、空母『相模』と『駿府』から飛び立った第二次戦闘機隊が追い付く。
第二機動部隊の戦闘機隊が接敵したことを受け、彼らの後方を進んでいた第一機動部隊『甲斐』と『国津神』も航空隊の発艦体制に入る。
装備を整えた隼翔は戦闘機に乗り込む。
闘志に燃える瞳に水を差したのは、インカムから聞こえた無線の音だった。
『高山聞こえるか。山県だ』
空母『甲斐』航空総隊長の山県だった。
『国津神の航空隊の仕事は八咫烏を守ることだ。突っ込み過ぎるなよ』
「……わかってるよ」
元上司に釘を刺された。
山県は簡潔に業務連絡を済ませ、無線を切る。
隼翔がコクピットから飛行甲板を見渡すと、ちらほらとカラスが舞い集って来ていた。
瑞岐の八咫烏は、敵艦影が見えて来た頃に出番が来るだろう。
甲斐から戦闘機小隊が飛び立った後、隼翔たちの小隊も発艦を始める。
飛び立ってから隼翔の目に飛び込んで来たのは、おびただしい数の敵機。
敵機の第一波は相模や駿府の航空隊との空中格闘戦を展開していた。
しかし、さらなる大軍が西の空から次々と飛来するのが見える。
「中国海軍に……空軍もいるか?」
持ち前の視力の良さで敵機を観察する。
その時、隼翔へ無線が入る。
『高山。山県だ』
隼翔の前方を飛ぶ、中隊を指揮する山県からだった。
『手前の奴らのお相手は第一艦隊の連中に任せて、俺たちは次に来る奴らを堕とすぞ』
「りょーかい」
山県中隊の後に続き、高山小隊も迂回して敵機の第二波へと向けて飛ぶ。
過酷な中米前線帰りのパイロットで構成された山県隊は、無駄の無い動きで次々と敵機をロックオン、撃破して行く。
高山隊もそれなりの経験を積んだ者が配備されたが、技術レベルの桁が違った。
敵第二次攻撃隊が高山隊に向けミサイルを発射する。
四本の連なる軌跡を描き、こちらに向かって来る。
「ミサイルロック外せ!全員散って避けるぞ!」
機内に警報が響くより早く隼翔が散開を叫び、それを避ける。
山県隊ほどでは無いとはいえ、この部下たちも隼翔が半年間みっちり鍛えた連中だ。
ただでは堕とされない。
120度に傾いた機体の中から隼翔は彼らに指示を出し、自身も敵機に向かうべく翻る。
即座に敵機をロックしミサイルを放つ。
同時に二機狙い一機は墜落せしめたが、もう一機は損傷軽微らしくまだ食らいついて来る。
急角度で旋回して敵機の尻を追う。
ついでに自機に近寄り機銃の射程に入った間抜けを撃ち落とし、隼翔は再びミサイルの照準を合わせた。
確実に一機を堕とす。
敵の数が多い。
弾の無駄撃ちは極力避けたい。




