050 帝江⑩
「今川軍の大軍を前にした信長公の気持ちがわかるな」
モニター越しの会議が終わってからも呆然と液晶画面を見つめる瑞岐の肩を、班目が優しく叩く。
「班目……」
瑞岐が振り向くと、微笑んだ班目が頷く。
「大佐は空母『国津神』の艦長だ。
君が不安な顔をしていたら下の者も不安になる。
艦長ならば余裕を見せて、太々しく笑っていたまえ」
不安が隠し切れない瑞岐を鼓舞する。
班目の気遣いに少し安堵して、ため息を吐く。
「うん。すまない」
ぎこちない笑みを浮かべ、瑞岐は答えた。
17歳になったばかりの少年には、湧き出る緊張と恐怖を隠し遂せる術はまだない。
それでも必死に前を向く。
「成瀬大佐は、我が国の至宝だ。何があっても必ず守り抜く。
だから心配は無用だ」
眼鏡の奥の切れ長の双眸はいつになく真剣で、彼もまた自の負の感情を押し殺していた。
「……班目……」
班目の言葉に、瑞岐は己の中で何かが引っかかるのを感じた。
すると、ふいに彼らの後ろからがさつな足音が近づく。
「『何か』なんてある訳ねーだろ。このオレが護る船に」
隼翔が二人に割って入る。この場にそぐわぬ明るい声で。
「おら。辛気臭い顔してんじゃねーよ」
バシーン!と、思い切り瑞岐と班目の背中を叩いた。
その握力に二人は思わずよろける。
「痛いじゃないか!この馬鹿力!」
思わず瑞岐は抗議の声を上げる。
「おー、元気あるじゃねーか」
「ははは……、少尉には敵わないな。流石、中米の前線帰りは器が違う」
班目は叩かれた衝撃でずれた眼鏡を直し、苦笑した。
文字通り力ずくで緊張を解いてこられたら笑うしかない。
隼翔に叩かれた場所がジンジンと熱を持っている。
「ミズキ」
「……なんだよ?」
ふいに名前を呼ばれ、瑞岐は不思議そうに隼翔を見る。
太々しく笑う、部下であり友人の顔。
「ウィザードだろうが、艦長だろうが、ミズキはミズキだ。
お前はお前のやりたいようにやれ。オレが全力でサポートしてやるから」
冷静な、けれどどこかおどけた低く力強い声。
「ハヤト……」
自分を見下ろす三白眼に、瑞岐は己の内の痞えが消えるのを垣間見た気がした。
「……うん、ありがとう。ハヤト、班目」
少年は決意を胸にする。




