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HOLY WORLD  作者: (仮)
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046 帝江⑥

「っつーことだ、チビ助。また余計なことすんじゃねえぞ」

 隼翔は大きな手の平でエリーの頭を撫で回す。

「お前と違ってオレらは平和主義なんだよ。戦争なんか望んでる奴ぁいねえ」

「あら、そうかしら」

 エリーは隼翔の手をぺしりと払いのけ、小さなその手で拳銃の形を作り、隼翔の顔に突き付ける。

「どんな国だって一枚岩じゃないわ。人が多ければ多いほど思想も多岐に渡る。

 あなたたちが主張する『総意』とやらも、望まない者はいるのよ。

 そして、わたしたちはそんな人々を見つけるのが得意なの」

 相変わらずませた物言いをする王女様を、どうあやしたものかと隼翔は考える。

「エリー王女」

 その横から班目が真剣な表情でエリーを呼ぶ。

「貴女が、イギリス国家側がどういう考えであったとしても、

 もし余計な火種を作り出す気でいるなら、我々はそれを排除しなければいけない」

「……心配しないで頂戴。

 今回の件はエリーたちから手を出すことはしないわ。

 ママからも、アカギたちの指示に従いなさいって言われているし」


「そういえば、もし中国との武力衝突が起こったら、

 アメリカやアジアの同盟国は応援にきてくれるのかな?」

 話題を変えるべく、瑞岐は隣の隼翔に声をかける。

「アメリカはともかく、アジアのほとんどは中国が怖くて動けないんじゃねえか」

「……アメリカも厳しいかもしれない」

「班目?」

 瑞岐が班目を見ると、彼は険しい表情で考え込んでいた。

「メキシコから南米ペルーに渡る各マフィア拠点が不審な動きを続けている。

 それもかつてない規模でだ。恐らく母体はカオス・エデン」

 カオス・エデンの息のかかった企業や組織が軒並み武装決起している。

 その情報は班目たちにも届いていたが、まさかアメリカ軍がそれに手一杯になるとは思わなかった。

 アメリカ・マフィア側も数多のウィザードを投入しての交戦になっているらしく、

 戦場となっている土地の荒廃が深刻だった。

 山間部では連日山火事が途絶えず、緑豊かな広大な土地を砂漠と変え、

 海岸線は破壊された兵器から流れ出した工業油や汚染物質で赤黒い海が広がる。

 火事と爆炎の煙で、昼も夜もなく空は黒く染まっていた。


「あら。あなたたちは知らないのかしら」

 深刻な表情の大人たちに、無邪気な笑い声が聞こえた。

「中国軍のトップに立つ人間が、中米マフィアの力で成り上がったこと。

 アメリカとニッポンへの『イタズラ』はそのせいだって。

 イギリスは今の中国軍トップを良く思わない人たちとお友達なのよ」

 エリーがさらりと言ってのける。すると、今まで黙って奥に控えていたエリーのSPが慌てて駆け寄って来た。

「王女!それ以上は……!」

 背伸びしているとはいえエリーも所詮は子供。考えなしに自分の知識を自慢げに披露してしまう。

 気持ちよく演説していたところに水を差され、むくれるエリー。

「なによ、ジョン」

「王女。他国のことより、明日からの合同演習についてのことを相談しなければ」

「……しょうがないわね」

「ええ。ええ。是非この演習で戦艦プリンセス・エリーの脅威をアジア中に知らしめてやりましょう」

 わがまま王女のお付きは、さぞや気苦労に絶えない事だろう。

 自身の名を冠した戦艦の話題に、先程までむくれていたエリーの顔がぱっと笑顔に変わる。

 彼女の為に造られた船の自慢をしたくて堪らないようだった。

「そうね。プリンセス・エリーはイギリスの最新技術の集大成だもの。

 アジアだけでなく世界中がその雄姿に感嘆するわ」


「ほー。例えばどんなとこがすげーんだよ」

 腰に手を当てて胸を張る王女に、隼翔が乗ってあげる。

「自動で瞬時にお湯を沸かし、100種類以上の茶葉から24時間いつでも好きな時に煎れたての紅茶が飲めるわ」

「……イギリスの最新鋭技術でやりたかったことがそれかよ」

「失礼ね、グリズリー。まだまだこれだけじゃないわ」

「へー」

「なんと、スコーンも粉の状態から全自動で焼きあがるのよ」

「……へー……」


 この後、戦艦プリンセス・エリーの家電自慢を延々と聞かされるはめになり、話を広げたことを後悔する隼翔だった。

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