045 帝江⑤
長い船旅を終え、第一機動部隊は佐世保の軍港へ錨を下ろす。
すでに日も暮れ、頼りない外灯に照らされた港。
国津神から降り立った瑞岐は、すでに停泊中の軍艦たちに違和感を感じた。
その違和感の正体は基地内施設に入った瞬間にわかるのだが。
「久しぶりね!Crow Mancer!!」
大会議室の扉を開けるなり、瑞岐の腹に特攻してくる小さな影。
その衝撃で胃の中身が全部出そうになるのを必死で堪えた。
「え……エリー王女?!」
見覚えのある金髪碧眼の幼女。
それは紛れもなく瑞岐誘拐事件を引き起こした、イギリスの小さなお姫様。
「なんでエリー王女がこんなところに?!」
「うふふ」
抱きついたままエリーは笑顔で瑞岐を見上げる。
「おー、久しぶりだな、チビ助」
驚く瑞岐の腹にへばりついたエリーを、隼翔は首根っこを掴んで持ち上げる。
「だから、高山少尉!他国の王族への無礼は!!」
相変わらず無礼な隼翔の言動に、参謀長もすっ飛んでくる。
「あら、グリズリーにHENTAI。あなたたちもまだ生きていたのね」
当の王女本人は、隼翔の高い高いに喜びつつ毒舌を吐く。
エリーから解放された瑞岐は、隣の班目に尋ねる。
「班目。なんでエリー王女が日本の、それも佐世保に?」
「ああ、成瀬大佐にはまだ伝えてなかったね。彼女は……」
「ママ……女王陛下の名の下、同盟国のピンチを救うべく
派遣されたロイヤルネイビーよ。ありがたく思いなさい」
「は……?!」
そこで瑞岐は、軍港内に感じた違和感の正体に気付く。
日本以外の軍艦が停泊していたのだ。
「中国の不穏な動きを視て、イギリスが友軍を送ってくれたんだよ」
「いや、それにしたって、なんでエリー王女が?」
「あら、お言葉ね。Crow Mancer」
隼翔の腕から降り、エリーは瑞岐に駆け寄る。
「エリーは英国王女にして、ウィザード。弾丸の魔女。
その力を東洋の野蛮人どもに魅せつけるために来てあげたのよ」
エリーは小さな手をあて小さな胸を張る。
「野蛮人だぁ?誘拐犯がよく言うぜ」
「うふふ。Crow Mancerを下僕にすることはまだ諦めてないわよ」
「諦めてないの?!」
ちなみにあの誘拐事件の後、エリーは親愛なるママから百叩きの刑にあった。
やるならもっとうまくやりなさい、と。
「まあ、いいわ。今回はその件は置いておいてあげる。
どうせ後に弾丸の魔女のちからにひれ伏すことになるもの」
「……懲りねぇお姫さんだな」
やれやれとため息をつく隼翔と瑞岐。
それを見てエリーは不敵に笑う。
「あなたたちは光栄よ。世界で初めて『Battleship of Princess Ellie』の
真のちからをその目で見られることになるのだから」
「バトルシップ……戦艦?」
「戦艦『プリンセス・エリー』は、エリーのために造られた船よ。
弾丸の魔女のちからを最大限に引き出すために」
ウィザードひとりのために、大型の軍艦を造り上げる。
日本だけでなく英国でもやっていた。
隼翔はウィザードの存在が如何に重要かということを再確認させられる。
「WW2の時にゃもう『時代遅れの恐竜』なんて呼ばれてたもんを
この現代で見れるとはな」
「『プリンセス・エリー』は最新のイージスシステムを搭載した
攻撃・防御ともに単体でも完璧で完全なる戦艦よ。
時代遅れなんて言わせないわ」
「へえ……イージス巡洋艦みたいなものかな」
「Crow Mancer、それは無礼よ。
巡洋艦ごとき目じゃない装甲の打たれ強さと大口径主砲の威力、
はやく見せてあげたいわ」
エリーは顔の前でチッチッチと人差し指をふる。
ため息をつきながら班目が、威勢の良い王女をなだめる。
「残念ですが、エリー王女。
彼の国との戦争は極力避けるのが、我々日本軍の総意ですよ」




