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HOLY WORLD  作者: (仮)
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036 泥人形⑥

 劣性の遺伝子は潜性、隠れているだけで消滅した訳ではない。

 ウィザードの親から生まれた子がウィザードの素質が無かったとしても、親から引き継いだウィザードの遺伝子は確実に子に受け継がれているのだ。

 つまり、ウィザードの親から生まれた子の、さらに次の代の子にもウィザードのDNAが引き継がれる可能性が高い。

 DNAを持っているということは、ウィザードの能力に目覚める可能性がある。


「我々研究部がウィザード能力の遺伝の可能性を見出した当時、ある事件が起こったのです」

 一時スクリーンから目を離すと日本海軍の皆を見渡した後、タイラーは小さくため息をついた。

「事件とは?」

 班目が相槌を打つ。彼はタイラーの話を聞きながら熱心にメモを取っていた。

「お恥ずかしながら……研究結果の情報漏洩ですわ。

 極秘での研究だったというのに。

 この研究所始まって以来の大きな不祥事となってしまいました。

 核心たる遺伝子配列に関しては漏れなかったものの、

 ウィザード親子間による遺伝の可能性のレポートを盗み出した者がいる」

「確かに。大変な事件ですね」

「盗み出した犯人は機関の関係者と、その知人のハッカー。

 どちらもアメリカ国籍の人間ではあったのですが……。

 結果として、我々は敵性勢力に加功することになってしまった」

「盗まれたレポートが敵国に渡ったのですか?」

 班目は彼女を責めない雰囲気を作ろうと、いつもの調子で穏やかに質問を続ける。

 タイラーは小さく肩をすくめて苦笑したが、すぐ真面目な表情に戻った。

「班目中佐の推測通りです。

 国内でも一時ウィザードDNAの噂が広まりかけましたが……。

 大手メディアに圧力をかけ、あくまでも『噂レベル』の話であると喧伝しました。

 しかし、最大の問題はそこではなく。

 中米の反社会的組織、カオス・エデンにレポート内容が漏れたこと」


 少し眠たそうに大人しく話を聞いていた隼翔に、その組織の名が届いた瞬間。彼の顔は険しくなった。


 カオス・エデン。


 エンジェルたちの所属する組織だ。

 小さく身動ぎした隼翔に、隣の瑞岐も彼の感情の変化に気付く。


「憎き中米マフィアは我々アメリカ合衆国の功績を掠め取り、

 悪辣な手段に研究を利用したのです」

 タイラーの美しい顔が怒りに強張る。

「タイラー女史。カオス・エデンは一体何を?」

 眼鏡を片手で押さえながら班目が尋ねる。するとタイラーはノートパソコンを操作し、スクリーンに一枚の写真を映し出す。


 四方を海に囲まれた小島。

 その中には何の変哲もない白い大きな建物がいくつかと、その建物をぐるりと取り囲むように高い塀や柵があるようだ。

 衛星からの映像であろうか。真上から俯瞰したような写真だった。


「ウィザード・ファクトリー。

 奴らがそう呼称している施設です。

 表向きはウィザードの研究施設ということですが、

 内部で行われているのは研究なんて文化的なものでは無い。

 家畜的に人間を飼い、人工授精させたウィザードの子を母体となる人間に植え付け、産ませる。

 ウィザードを量産する為の工場ファクトリーです」


 赤城以外の面々は言葉を詰まらせた。

 一瞬彼女が何を言っているのか、言葉の意味が、理解が追い付かなかった。


 タイラーは立ち上がり、スクリーンの真ん中まで歩いて来ると、映像の建物を憎々しく平手で打ち据えた。


「ウィザードの親から生まれる子は、

 通常よりも遥かにウィザードの能力に目覚める可能性が高い。

 それを利用して、ウィザードの精子や卵子を体外人工授精させ、

 母体となる子宮に植え付ける。

 生まれた子がウィザードであれば、マフィアの兵器として。

 そうでなくても、知能や身体能力に優れていれば兵隊として。

 どちらでもない使い道のない者は、人体移植用素材として解体され売り捌かれる。

 口に出すのも憚られる、悍ましい計画よ」


 瑞岐は軽い眩暈と、意識が遠のくような感覚に襲われた。

 隣の席の隼翔が、手に持っていた飲み干した後のコーヒーカップを握りつぶした音で、はっと我に返る。


「人工授精……それで生んだ子供が、ウィザードの能力を持って生まれるのですか?

 その……ウィザードの能力を持った子が、高確率で」

 班目も冷静を装いつつ話を続ける。右手の中のペンが小刻みに震え、彼の動揺を現していた。

「ええ。……先ほど、アメリカ国内でも

 『親からの遺伝によりウィザードの子はウィザードが生まれやすい』

 という噂が広まったとお伝えしましたね。

 情報漏洩による国内での噂とマフィアの悪行。

 奇しくもそれらは我々の研究結果が正しいという裏付けとなりましたわ。

 事件から数年後、アメリカ国内で発見されるウィザードの数が

 飛躍的に向上していきました。

 現在アメリカ合衆国はどの国よりも多く、ウィザードを保有している」


 タイラーは再び自分の席に戻り、パソコンを操作する。

 映し出されたのは、全て英語で書かれた……インターネットサイトだろうか。

 恐らく民間のもので、ポップなデザインが目を引く。

「不妊治療に悩む夫婦やシングルマザー向けに展開されている

 我が国の精子バンクです。

 例の噂が飛び交った当時から現在まで、

 トップの取引商材となっているのがウィザードの男性の精子」

「どうせ産むなら、『ウィザードが生まれる確立』の高い遺伝子を。ということか」

 今まで沈黙を続けていた赤城が口を開いた。

 日本同様、いや日本よりも遥かに良い待遇で、アメリカ軍はウィザードを雇用する。

 アメリカ人としてウィザードの能力を持って生まれれば、どんな人間でもアメリカンドリームを手にすることができるのだ。

 その為に、ウィザードの遺伝子に人々は殺到した。

「そして実際に、

 そうして生まれた人間たちは通常よりも遥かに高い確率で、

 ウィザードの能力を持っていた。

 たった十年のデータだというのに、明確に結果を出したのです。

 我々の研究は、アメリカ合衆国とカオス・エデンに巨大な力をもたらした」


「ふざけんな!!人間を、自分の子供を宝くじかなんかだと思ってんのか?!」


 握りつぶしたカップを机に叩きつけ隼翔は立ち上がった。

 怒りに燃える隼翔の三白眼に怯むことなく、遠くから彼をなだめるのは、瑞岐と赤城を挟んだ場所に座っていた班目。

「言いたいことはわかるが、落ち着きたまえ、高山少尉」


 班目の隣で赤城も腕を組み、静かな低い声で言葉を投げる。

 赤城の眉間に刻まれた深いしわがより一層深くなり、すぐ下にある二つの鋭い眼光が隼翔を刺す。

「高山」

 名前を呼ばれ、険しい表情のまま隼翔は赤城を振り返る。

「『それ』を望んだのは、あくまでも国民だ。誰に強制された訳でもない。

 己の意思で、ウィザードの能力を持つ子に望みをかけて、ウィザードの子を産んだ」

 赤城に続き、タイラーも宣言する。

「赤城元帥の仰る通りですわ」

 彼女は静かに立ち上がり、すらりと伸びた両手を天に掲げた。

「我々アメリカ合衆国は、マフィアたちの取った邪悪な手段とは違う。

 個々による自由意志のもと選択された、正義による秩序」

胸糞悪い話考えてるときが正直一番楽しい。

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