表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HOLY WORLD  作者: (仮)
36/93

035 泥人形⑤

 翌日。


 赤城を先頭に、礼装の軍服を身に着けた面々は、カリフォルニア州サンタモニカにある研究機関へと向かう。

 宿泊したホテルから研究所側が手配した車に乗って移動した。

 車は六人を余裕で収容できるフルサイズバンだった。

 大きな車は、これまた大きく広いアメリカの州道一号線を通り、サンディエゴを抜け出す。

 美しい海岸線を左手に、雄大な大自然を右手に眺めながらのドライブは、仕事でなければどんなに気分が良いだろう。

 瑞岐は初めてのアメリカに来てからというもの、日本には無いダイナミックな風景や建造物に驚きっぱなしだった。 


 やがて、広い敷地に楕円形をした巨大な建物が見えて来た。

 車はセキリュティゲートを抜け、敷地内へと入って行く。

 正面玄関の石碑にある『Think Tank』の文字から、ここが目的地だとわかった。


 研究所正面玄関で車は止まり、運転手は日本の面々に降車を促す。

 全員が車から降りると正面玄関の自動ドアが開き、女性が一人、こちらに向かって歩いてきた。

 女性の動きに合わせ、ハイヒールがコツコツと音を立てる。

「初めまして、日本海軍の皆様。

 アメリカ合衆国のウィザード研究本部、広報担当官のカルラ・G・タイラーです。

 この度は遠いところ、ご足労頂きありがとうございます」

 黒い髪をアップでまとめ、ダークブラウンのスーツを着たスタイルの良い美女。

 瑞岐よりも少し高い身長に浅黒い肌の色をしたアメリカ人だったが、彼女は流暢に日本語を操り、日本式の挨拶をこなした。

 かっちりとした化粧とスーツの着こなしに、彼女の生真面目さが伺える。

「この度は、同盟国である我々アメリカとのウィザード研究の情報共有、ご承諾頂き光栄ですわ」

 タイラー女史は赤城に握手を求めた。赤城はそれに応じ、少し複雑な表情で答えた。

「まあ、最近、日本でウィザード絡みの事件が立て続けに起こりましてな」

 アメリカ側は以前より赤城に……日本側に研究の一部共有と相互支援を要求していた。

 日本政府や軍はその件に関しては賛成半分、反対半分といったところか。

 赤城としても研究自体には意欲的であったが、どうしてもアメリカ側のやり方に合わせる必要があり躊躇していた。

「何があったかは存じませんが、私共にとっては喜ばしい限りですわ。

 ……ええと、貴方が日本海軍のウィザード、成瀬大佐でしょうか?」

 タイラーは瑞岐を目に捉え、微笑んだ。

「は、はい……」

「以前お送りした資料の『烏使い』です」

 突然話を振られ戸惑う瑞岐に代わり、赤城が答える。

「うふふ。こんなにお若い大佐さんは初めてですわ。宜しくお願い致します、成瀬大佐」

「こ、こちらこそ、宜しくお願いします」

 瑞岐とタイラーは握手と挨拶を交わした。

 外国の研究所エリートとの肩書への緊張感とは別に、つい美しい女性との握手にドキドキしてしまう。


 一通りの挨拶を終えると、タイラーは研究所内のレセプションルームに一同を案内した。

 無機質な白い壁に薄鼠色のカーペット。小さな会議室用の机と椅子が二十人分ほどあり、前方にはプレゼンテーション用の大きなスクリーンが掲げられている。

 席に着くと、彼女は飲み物は何がいいかと聞いてきた。

 日本式の会議しか知らない瑞岐が戸惑っていると、班目が小声で「遠慮せず飲みたいものを言えば良い」と教えてくれた。

 大人たちが次々とコーヒーを頼むので、思わず瑞岐も同じものを頼んでしまう。頼んでから、苦手なコーヒーじゃなくてお茶にしてもらえばよかったと後悔した。


 しばらくの歓談の後、タイラーとは別の女性が飲み物を運んで来た。

 プラスチックの使い捨てカップに入ったコーヒーを手際よく配っていく。

 彼女がそれを終え退出すると、スクリーンに映像を映し出すため部屋の明かりが絞られる。

 暗くなった部屋でタイラーはノートパソコンを操作し、プロジェクターから送られた資料をスクリーンに大きく映し出した。


「人智を越えた超常的な能力を持つ人間、通称・ウィザード。

 我々アメリカ合衆国は、ウィザード研究の最も先を行っていると自負しておりますわ」

 タイラー女史は落ち着いた声で話し始めた。

 スクリーンには英字の、アメリカ国内のものと思われる新聞の記事が映し出されている。内容はウィザードに関してのものばかりであった。

「世界で初めてウィザードの能力を発見したのも我が国であり、

 これまであらゆる方向から研究がなされてきました。

 能力そのものの運用方法は勿論、能力の促成、ウィザード自身の研究」

「ウィザード自身……ですか?」

 自分のことを言われたようで、瑞岐は反応する。

「そう、例えば……」

 タイラーの言葉と共に、スクリーンに二重螺旋状の3Dイラストが映し出される。

「ウィザード能力保持者特有の遺伝子情報。

 今から約十八年前、我々はウィザードの能力を持つ人間には

 必ずある特殊な遺伝子情報が顕在化していることを突き止めました」

 二重螺旋のDNAの映像は別の物に切り替わる。単純な線と色で描かれた植物のイラストだった。

「遺伝子学における優劣の法則はご存知かしら。

 グレゴール・ヨハン・メンデルによるエンドウ豆の生育実験。

 同時に表れることのない対照的な性質を持つ二つのエンドウ豆の苗を掛け合わせ、

 どちらの特徴を遺伝として受け継ぐか……。

 対になる特徴、例えば緑色の種子と黄色の種子。

 丸い種子としわのある種子。背丈の高いもの低いものなど」

 緑や黄色のエンドウ豆のイラストが図解でわかりやすく描かれていた。

 タイラーは言葉に合わせて指揮棒で丁寧に図を指して説明していく。

「これは他の生物……人間の遺伝子にも適用されますね。

 背の高さ、肌の色、髪の形状、指紋など、人間の形質は遺伝子情報の集合体です」

 エンドウ豆のイラストが、様々な人間の写真に変わった。

 背の高い者、低い者。肌の色が白い人種、黒い人種……対になるような二人の組み合わせの写真であった。


「つまりは、ウィザードもまた人間であり生物である以上、

 遺伝子の研究は可能ということ。

 我々ウィザード研究班は彼らの遺伝子情報の解析に心血を注いだ。

 そして、ある事実に行き着きました。

 ウィザードには固有の遺伝子配列があり、そしてそれは

 発現する可能性が極度に低い劣性遺伝子から構成されている」


 隼翔や瑞岐、いや赤城以外の日本人が皆、息を飲む。


「劣性……遺伝子……?」

 アメリカの研究の凄さを感じると共に、瑞岐は薄っすらと背筋が凍るような、言いようのない不安に襲われた。

 赤城の隣に座っていた班目が唸る。

「比較的顕在化……表に現れやすいのが優性の遺伝子、

 現れにくいのが劣性の遺伝子だよ、大佐。

 成る程、だからウィザードは一億人に一人程度の極々低い確立で誕生してくると」

「そういうことですわ。班目中佐」


 優性の遺伝子を『A』、劣性の遺伝子を『a』とする。

 父が『AA』、母が『aa』の遺伝子を持つ親から生まれる子が『AA』『Aa』『aa』の三人だとすると、劣性遺伝子『a』が表に発現するのは『aa』の子一人である。

 さらに父親が『AA』、母親が『Aa』であった場合、如何なる遺伝子配列であった場合も、表に現れる性質は全て『A』のもののみとなる。

 代が進むごとに劣性の『a』は埋もれて発現することは減って行くことになる。


「そして……。『ウィザード固有の遺伝子』なるものがある、

 それはつまり『ウィザードの能力は遺伝する』。

 ウィザードの親を持つ子は、ウィザードの遺伝情報を確実に持って生まれる。

 極々劣性、潜性のため、その子がウィザードのDNAを持っていたとしても、

 能力に目覚める確率は低い。

 しかしそれでも……ウィザードの親からウィザードの子が生まれる確率は高いのです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ