032 泥人形②
「砲雷科に、新しい人員の配属?」
その日、瑞岐は空母・国津神での訓練中に班目に呼ばれ、人事異動の報せを受ける。
「今になって新しく?大体のメンバーは浸水式典の時までに決まってたのに」
「ええ。赤城閣下より、直接の辞令ですね」
赤城直々に個人に辞令を出すのは珍しい。隼翔の異動の件だとか、大体特殊な事情がある時だけのことだった。
「以前あったエリー王女による誘拐事件や、先月のエンジェル襲撃事件を受けて、成瀬大佐の身辺警護も兼ねているそうです。
なんでも軍人としての能力は元より、個人としてもかなり腕が立つ者だとか」
「ええ……SPみたいなのが僕につくの?」
「まあ、そんなところですね」
SPも軍人の中で間に合わせる辺り、かつかつな懐事情の日本軍らしい。
しかも最近は、国産空母建造だの、アメリカ製空母の購入など、出費が途轍もないことになっている。
班目も仕事で財務省関係の人間と会う度に、海軍というだけで白い目で見られて辛い。
「来週の訪米に合わせてのことでしょうね」
「ああ……」
瑞岐と班目、そして隼翔は、来週赤城と共にアメリカに出張が決まっていた。
アメリカ合衆国へ派遣されている部隊の引き揚げの式典への出席と、アメリカの軍事研究機関へ視察に行くことになっていた。
「その新人たちと高山少尉は、名目上は大佐の護衛です」
「新人『たち』?」
「ええ。今回異動になったのは二名。なんでも双子の軍人だとか」
「双子?!」
二人がそんな話をしていると、ドアをノックする音がした。
班目が入るように促すと、ゆっくりと扉が開き男二人が入って来た。
165㎝の瑞岐が見上げるほど大きい、その二人の背丈に圧倒された。
隼翔よりも大きかった。190㎝ぐらいだろうか。しかもその体型は軍人を超えて、プロレスラーやボディビルダーのような逞しい筋肉だ。
そして何よりも驚いたのは、その大男たちは同じ顔をしていた。
太い眉に、深い眉間の皴、骨ばった輪郭に厚い唇、瓜二つの強面の迫力たるや。
彼らは同じ海軍水兵の軍服を纏い、違う箇所といえば髪型くらいだろうか。
一人は角刈り、もう一人はソフトなモヒカン刈りだった。
驚く瑞岐に、二人は敬礼をして自己紹介を始めた。
「本日付で空母・国津神へ配属になりました、綾小路千歳、一等水兵!」
「同じく綾小路千代、一等水兵!」
前者が角刈り、後者がモヒカンである。
外見に違わずどっしりとした太い声だった。
「これから宜しくお願いします!!」
二人は双子らしい息の合った連携で同時に言い放った。
「あ、ああ。宜しく。艦長の成瀬瑞岐、特務魔術士官大佐だ」
瑞岐は答礼と共に名乗り、その後やわらかく微笑む。
「あなたが……」
「成瀬大佐……」
トクン……。
目と目が合う瞬間、双子の鼓動は高鳴る。
瑞岐は悪寒がして後ずさった。
「?!」
見事なムーンウォークで後ろの壁に激突する瑞岐を見て、班目が不思議そうに首を傾げる。
「ん?どうしたんだい、大佐」
「いや……、なんか急に寒気がして」
恐る恐る双子の軍人を見ると、気のせいか二人とも顔が紅潮しているような。
「綾小路千歳、二十五歳」
「同じく千代、二十五歳。この度の配属、大変喜ばしいこと」
「うむ、誠に光栄なり。我らが艦長がこの様な実に美味しそうな少年とは」
ああ、うん。気のせいじゃなかった。
思わず瑞岐は班目を盾に、その後ろに隠れ怯える。
「班目!!本当にこいつらが僕のSPなのか?!」
「そうだけれど」
「逆に危険じゃないのか?!」
瑞岐があたふたと班目に詰め寄っていた時、ドアの外からドスドスと大きな足音が聞こえてきた。
足音の主は断りもなく扉を開け放ち部屋に入ると、部屋の者たちを遮って無遠慮に話し始めた。
「オーイ、班目ー。また練習機壊れたぞー」
隼翔だった。
というか、こんな入室のしかたをするのは、日本軍広しと言えど隼翔だけだ。
「またかね、少尉?!今週に入って何回目だ?!」
班目は再び財務省の針の筵に飛び込んで行って、修理費の領収書を提出しなければいけない事を憂いた。
胃がきゅっと悲鳴を上げるのを感じる。
そんな班目の苦労も知らず、隼翔はぶっきらぼうに言い放つ。
「真面目に訓練してる証拠だろーが。……って、なんだお前ら」
隼翔は部屋にいた見知らぬ大男たちに気づいた。
「見ない顔だな」
「ああ、ハヤト。彼らは新しく国津神の砲雷科に配属になるらしいんだ」
冷静を取り戻した瑞岐は、隼翔に千歳と千代を紹介する。なぜかSPの件は触れなかった。
「綾小路千歳。双子の兄である」
「綾小路千代。双子の弟である」
「へー。中々いいガタイしてんじゃねえか!オレは航空隊の高山だ。宜しくな!」
隼翔はいつもの友人や部下たちに対してするように、気安く二人の肩をバンバンと叩いた。
四つの小さな瞳が、明るい笑顔を浮かべる航空隊長を捉えると、双子の鼓動は再び高鳴る。
トゥクン……。
「???!!」
隼翔は、ゾワッと鳥肌が立つのを感じた。
二人と目と目が合った瞬間、背筋を恐ろしいほどの寒気が襲った。
双子の肩に触れていた隼翔の両手は、そのまま千歳・千代の顔面を鷲掴み、後ろの壁に勢いよく叩きつける。
ドゴーン!!!という激しい音と共に二人の頭が同時に壁に埋もれる。
「……あっ」
隼翔はハッと我に返る。
「悪ぃ。なんか殺気を感じてつい……」
身の危険を感じた。条件反射だった。
壁にめり込んだ双子を見て、瑞岐と班目は言葉を失う。
「…………」
なんで自分の艦には、奇人変人ばかり集うんだろう。
瑞岐は、先行きに不安を感じずにはいられなかった。




