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HOLY WORLD  作者: (仮)
27/93

026 Anjel①

 横須賀より北西、神奈川県伊勢原市。

 首都圏には珍しい未改良の峠を、隼翔は愛車を操つり翔けていた。


 赤と黒を基調にしたカウルが鈍く輝くスーパースポーツの大型バイク。

 黒のフルフェイスヘルメットに、ライダースジャケットはバイクに合わせた赤と黒。


 軽快にバイクを左右に傾かせ、繰り返すカーブを抜けて行く。


「ハヤト!スピード出しすぎじゃないのか?!」

 風切り音と一緒に、後ろのタンデムシートから喚く声が聞こえる。

 隼翔に借りたジェットヘルメットを被り、瑞岐は必死に彼の背中にしがみついていた。

「ここ40キロ制限て書いてあったぞ?!」

「うるせーな、戦闘機に比べたら可愛いもんだろ」

 走行中のバイクで、さらにフルフェイス越しだと声がよく聞き取れない。どうせ聞こえないだろうと、隼翔は遠慮なく舌打ちする。

「僕たち一応、国家公務員なんだぞ!」

「あー、はいはい、わーったよ」

 もちろんアクセルは緩めない。


 久しぶりの休暇だったので、せっかくだからと瑞岐をツーリングに誘った…というか、わりと強引に連れて来た。

 初めて乗るバイクに最初は楽しそうだった瑞岐も、容赦なくスピードを出し、カーブの時は思い切り車体を傾ける隼翔の運転に恐怖した。いや、隼翔は運転自体は上手いのだが。


 入り組んだ道を抜け、開けた場所に展望台が見えた。

 二人を乗せたバイクは駐車場に入り、停車する。

「ほらよ、降りろ。ミズキ」

 エンジンを切り、跨ったままサイドスタンドをかけて瑞岐に降車を促す。

 慣れないバイクでの走行にバクバクと高鳴った心臓のまま、瑞岐は降りてヘルメットをはずすと、自然と深い息が漏れる。


 展望台からは、街並みと相模湾が一望できた。

 先程まで走っていた山道と打って変わった眺めに見とれていると、大きな風が髪と着ているチェスターコートの裾を揺らした。

「いつも海ばっかだからよ。たまにはいいだろ、山登りも」

 展望台の柵に寄りかかって、隼翔は煙草を取り出し火を点ける。

「うん。こんなところ、初めて来た。

 …いつもハヤトは僕の知らないことを教えてくれるな」

 横須賀の街と、軍艦の中の風景、そして海。それ以外の場所は、数えるほどしか見たことが無い。

「…まあ、大概くだらないことだけど」

「お前は本当に可愛くねーな!素直に喜んどけよ!」


 空母…国津神に異動になってから、とても忙しかった。

 駆逐艦に居た頃の約四倍もの船員、駆逐艦には無かった兵科もたくさんできて、慣れない計器や電探に囲まれた部屋で八咫烏の運用練習。

 班目たち参謀科のお陰で書類仕事だけは随分と楽になったのが、瑞岐にとって救いだった。

 勿論、隼翔もまた航空隊長として部下ができ、教育・訓練に悪戦苦闘する毎日だった。


 たまには仕事を忘れてのんびりと綺麗な景色を眺めて心を癒そう。そう言って隼翔は瑞岐を連れ出した。


「ミズキ、お前はもーちょっと外に出ろ。休みの日はほとんど家ん中か、せいぜい横須賀の街かだろ?

 若いうちにもっと色んなもんを見て、色んな体験しておけ」

 休みの日の瑞岐は、専ら自宅でゲームしてるか、飛行機のプラモデル作りに勤しんでいるかだ。

「特にアウトドアだ!も少しアウトドアな趣味を持っとけ!でねーと将来、船務科の三人みたいに根暗になるぞ」

 隼翔が言っているのは、春日・橿原・出雲のことだろう。

「かと言って、お前みたいにはなりたくないんだけど」

「ああん?なんだとてめー。じゃあどういう大人になりてーんだ」

「うーん」

 知っている大人たちの顔を思い浮かべる。

「…仕事ができて、落ち着いてて、気配りもできて……」

 真っ先に瑞岐の頭に浮かんだのは、先日会った陸軍の飛騨中将だった。思い出しながら彼の印象を説明する。


 それらの断片的な情報から隼翔は答えを導き出す。

「班目か」

「いやそれだけはない」

 即答、断言である。

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