025 神風④
光の弾丸が地面を抉り、飛騨に迫る。
足先から三メートルほどまで来た所で、飛騨は刀を素早く左へ大きく薙いだ。
空間を切り裂くように刃先から生まれた突風は、飛騨に直撃する弾丸をかき消した。
しかし、瑞岐は諦めない。
飛騨を通り過ぎた爆撃機はそのまま真上に舞い上がり旋回し、飛騨を目がけて急降下爆撃を仕掛けた。
飛騨もまた、左から切り上げた衝撃波を盾とする。
「ッ!!」
風の盾は全弾を受け止めきれず、飛騨は後方へ跳び退く。
一瞬前まで彼が居た場所に爆撃機の弾丸は降り注ぎ、激しい音と土煙が舞う。
飛騨の神風は瑞岐の烏と違い、広範囲へ展開できるかわりに長時間発現することはできない。
そこを突かれた。
撃ち終わると爆撃機は再び上昇し、低空を水平にくるりと一周すると、烏の姿に戻り瑞岐の腕に帰った。
「飛騨中将!」
はっと我に返った川崎は、中将の身を案じ、土煙の中に呼びかける。
「ご無事ですか?!」
震田と午雷も心配そうに見つめ、赤城だけが満足そうな顔で微笑んでいた。
「ああ、問題無いさ。川崎」
立ち込める土煙の中に、外套を纏う男の姿が浮かびあがる。
「やれやれ…。お前も負けず嫌いだな」
飛騨はひとつ小さなため息をつくと、刃先についた鉄血を払う仕草の後、刀身を鞘に納める。
そして瑞岐に歩み寄り、握手を求めた。
瑞岐はカラスを野に帰し、その手を取る。
「魔術師として良い成果を得られた。成瀬大佐、感謝する」
武人として飛騨は礼を言い終わると、次は気さくな笑顔になった。
「勝敗は、お前の勝ちで良いよ。瑞岐」
「……すみませんでした」
ムキになって少々やり過ぎた。
頭を下げ謝り、中将閣下に怪我が無いことを確認して安堵する。
「ははは、謝ることはないさ。俺が本気で来いって言ったんだ」
飛騨は瑞岐の肩をぽんぽんと叩いた。
その手の刀を振りできた胼胝の多さに、瑞岐は飛騨の努力の跡を見る。
二人が戦いの構えを解いたのを見て、赤城や陸軍の面々が近寄って来る。
飛騨は真っ直ぐに信念を湛える黒い瞳で陸軍の仲間たちを指し、力強く宣言した。
「俺の風だけでなく、陸軍は皆、日本の防衛に全力を注いでいる。
海軍・空軍の背中は、我々陸軍が必ず護りきる。
後ろを憂うことなく、お前は前だけを見て進め」
空が闇に染まり始める時刻となり、遥か遠い水平線で太陽が夜を灼いていた。




