024 神風③
飛騨は陸軍基地内の訓練場に、瑞岐たちを案内した。
開けた屋外で、コンクリート舗装されていない土の地面。どれだけ砲弾を撃ち込んでも大丈夫だろう。
「さあ、まずは俺からだ」
黒の外套に黒の詰襟、黒の制帽を纏い、腰には銘刀「天之尾羽張」を下げた飛騨。
その姿は、まさに侍。
飛騨が目配せすると、傍に控えていた川崎が、腰のホルスターから拳銃を取り出す。
十メートルほど離れたところで、川崎は美しく正しい射撃姿勢を取り、飛騨に銃口を向け、安全装置を外した。
飛騨は両足に力を入れ、刀の柄と鞘をそれぞれを握り、抜刀の構えを取る。
川崎が引き金を引き、射撃開始を鋭く叫ぶ。
拳銃から火花が散ると同時に、飛騨は刀を抜く。
飛騨の瞳が緑に輝き、抜刀の衝撃で出できた風が竜巻へと変わり、弾丸を弾き飛ばした。
飛騨の外套が大きくたなびく。瑞岐の前髪が揺れ、制帽が風に巻かれる。
風が止むと、制帽は少し離れたところに落ちた。
驚く瑞岐を見て、飛騨は笑った。
「まだまだ、これからだぞ」
拳銃をしまった川崎の後方より、ガタガタと大きな物を運ぶ音が聞こえてたかと思うと、陸軍の男性が二人で大筒を運んできた。
訓練を抜け、同期の飛騨からの頼みに馳せ参じた震田と午雷は、手際良く対戦車用ミサイルの発射準備を行う。
本来戦車に向けるレーザー照射機の照準を、飛騨に合わせた。
「飛騨中将!」
準備を終え、砲身と地に伏した震田・午雷は飛騨に合図を請う。
片手に抜き身の天之尾羽張を持ち、飛騨は信頼する友人たちに「いつでも来い」と手招きする。
閃光と轟音。
「弾着!今!!」
飛騨の振り下ろした刀の風圧は、震田の声をかき消すように風となり舞い、鋼鉄の塊は切り刻まれる。
切り刻まれた弾丸は粉塵と化し、空へ消える。
見事、神風は対戦車砲を無力せしめた。
飛騨は日本の国土全てを覆い護れるだけの風を造り出すことができる。
刀の風圧から巻き起こす竜巻からなる盾なので、持続性は無いのだが、四六時中レーダーと格闘している情報部との連携で、その効果を最大限に発揮する仕組みを作り上げた。
日本の土を踏みしめている限り、外敵からの攻撃を防ぐ。
この神風は他所の為ならず、この地の為に。奇跡の剣は士魂の盾と成る。
「どうだ瑞岐、俺の風は。次はお前の番だぞ」
緑に輝く瞳の飛騨は、もうひとりの魔術師を呼ぶ。
瑞岐は赤城から離れ、空いた場所へと移動する。
一羽のカラスを呼び寄せ、頭上に掲げた左腕の先で八咫烏へ変化させた。
その腕を離れた烏は宙でレシプロの爆撃機へと姿を変え、現代の航空機では聞くことのない羽音を響かせ空を舞う。
飛騨以外の魔術師を見たことが無い川崎や震田、午雷の陸軍の面々は驚愕した。
当の飛騨は、成長した瑞岐の力に感嘆する。
初めて会ったあの日、幼い瑞岐を肩車して航空機の演習場に連れていった。
瑞岐は飛行機が好きらしいことを聞いていたので連れて来てあげたのだが、幼い瑞岐は本当に喜んでいた。
飛騨の肩から降りると、近くの金網で羽根を休めていたカラスを指さす。
するとカラスは、小さなラジコン飛行機へと姿を変えた。
すっかり飛騨に懐いた瑞岐は、カラスの飛行機を自慢げに見せて笑ったのだった。
あんなに小さかった瑞岐が、瑞岐の魔力が。
瑞岐は、まず飛騨に直撃しない離れた位置を狙い、烏の機関銃を発砲させる。
飛騨は刀を中段に構え水平に空間を切り裂くと、風は魔力の弾丸を吹き飛ばす。
弾かれた光の弾丸は、風に?き消え消滅する。
その結果に飛騨は喜び、瑞岐は焦りを覚える。
「今度は中将の頭上を狙います。大丈夫でしょうか」
「問題ない。遠慮は要らん、どんどん来い!」




