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HOLY WORLD  作者: (仮)
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023 神風②

 瑞岐は全く覚えていないが、二人は昔、一度だけ会っていた。


 それは瑞岐が六歳で横須賀に来たばかりの頃、飛騨が十九歳の時だった。

 海軍本部に呼ばれ向かった飛騨に紹介されたのは、人見知りをして、軍医の加賀の背に隠れた小さな子供だった。

 加賀の後ろから飛騨の様子を伺う瑞岐に、子供好きの飛騨はにこやかに声をかける。

 小さな背丈の目線に合わせて屈み、優しく頭を撫で名前を尋ねると、瑞岐は自分の名前を答えた。


 飛騨は、それを覚えていた。



「それで。今日はうちの成瀬との演習を希望している、とのことだったが」

 赤城と瑞岐、飛騨と川崎の四人はローテーブルを挟んで向かい合って座ると、赤城が切り出した。

 どうやら、演習で呼ばれたのは、飛騨の要請であったらしい。

「はい。先日の英国軍魔術師との技術交流の映像を拝見しました」

 先週のエリーとの技術演習は、班目がカメラで動画撮影していた。飛騨はそれを見たという。

「瑞岐…成瀬大佐だけでなく他国にも、自身の魔力を攻撃の力に変える魔術師が存在する。

 俺の『風』はそれらに、魔力の弾に太刀打ちできるのか、検証したい」

「…風?」

 瑞岐は飛騨の能力を知らない。

 遠慮がちに飛騨の顔を見ると、飛騨は一度優しく微笑んでから再び真剣な表情を作る。


「俺の力は、通称『神風』。神風はこの日本を護る、盾の剣」


 飛騨は川崎から刀を受け取り、瑞岐の前に差し出して見せた。

 その刀を自分の顔の前に持ってくると、ゆっくり鞘から引き刃を覗かせる。

 よく手入れされ白銀に輝くその刀身には、『天之尾羽張』の銘が刻まれている。


「我が愛刀を触媒に発動する風は、銃弾、爆弾、果ては弾道ミサイル。この国を仇なす全ての攻撃を弾く」


 刀身を鞘に納め直すと、横にいた川崎が受け取る。


「俺の風が物理的な攻撃を防ぐことは実証されている。

 しかし魔力で造られた弾を、この盾は防げるのか。

 試したことが無いんだ。

 先の技術交換にて、英国の魔術師……成瀬大佐以外にも、魔法での攻撃能力を持つ者がいると分かった。

 それはつまり、日本の敵性となる国家や勢力がその力を有している可能性がある。

 神風は、それらの盾足りえるのか」

「確かにな。ウィザードの能力は千差万別。どんな力が日本の脅威になるかもわからん」

 だからこその、瑞岐との演習だと。

 瑞岐の八咫烏の攻撃を、飛騨の神風は防ぐことが可能なのか。

 現在日本に存在する二人のウィザードによる一騎打ちを、飛騨中将は望んでいる。


「勝負だ、瑞岐。俺の風と、お前の烏。どちらが勝つか」

 飛騨はにやりと悪戯っぽく笑う。


 この飛騨という男は、仕事に真摯で、目上の者には礼儀正しい。それでいて年下の者には気さくで、頼れる兄のような親しみやすさを覚える。

 彼は瑞岐にとって、理想の『大人』に見えた。

 同い年ということで、つい隼翔と比較してしまう。比べるなんて失礼なことだけれども、どうにもあの自由人が脳裏をよぎるのだ。



 三日前、空母・国津神で初めての発着艦訓練を行った際のことだった。


 航空隊の面々が練習機での発艦を行っているのを艦橋から見下ろしていた瑞岐に、ふいに隼翔からの無線が入って来た。

『オイ、ミズキ!空!上だ!上見てみろ!』

 急かす隼翔の言葉に促され、何事かと空を見上げた瑞岐は、言葉と表情を失う。


 雲ひとつ無い、良く晴れた青空に、隼翔の乗る航空機が出した煙幕により描かれた、巨大な巻き糞。


 巨大な巻き糞が!


 絶句する瑞岐の横で、それを見た船員たちが口々に叫ぶ。

「ウンコだ!!」

「す、すごい!空に巨大なウンコが!」

「ものすごく高レベルな技術で、ものすごく低レベルなことをしている!!」

「さすが、高山少尉だ!!」



 思い出したら、無性に腹が立ってきた。

(あの後、近所から苦情が来て、僕が怒られたんだぞ!)

 小学生のような発想をする隼翔の悪行に、怒りから拳でテーブルを叩いてしまう。

 ドン!という鈍い音に驚いた赤城たちが瑞岐を見ると、瑞岐は我に返って無礼を詫びた。

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