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HOLY WORLD  作者: (仮)
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022 神風

 エリーたちイギリスの来賓が帰国していったのは、もう一週間前になるだろうか。

 日本も徐々に夏の暑さが顔を覗かせてきた。


 瑞岐誘拐事件の後、女王陛下の言葉通り、瑞岐たちを赤城の部下が迎えにやって来た。

 瑞岐たちは勿論エリーたち側も一切の怪我はなく、平和的な解決を見せた。…まあ、イギリス国家元首と海軍省大臣の命令では、このメンバーの誰も逆らえないのだが。


 誘拐犯のエリーはというと、恐ろしいママからの電話の後、ずっと頬を膨らませて黙りこくっていた。

 隼翔は「ごめんなさいくらい言えないのか」と怒ったが、つんとそっぽを向いて拗ねている。

 破れたシャツを着替えた班目が、「レディなら素直に己の非を認め、謝るものなのですが」と諭して、やっと小さな消えるような声で「ごめんなさい」と呟いたお姫様だった。


 結局、小さな子供のイタズラということで、深い追及もせず、赤城と関係者間だけの内々に済ませることとなった。



 あの時のエリーの顔を思い出し、瑞岐は一人笑った。

「どうしたんだね、成瀬大佐」

「あ、いえ、なんでもありません」

 隣に座っていた赤城に指摘され、思い出し笑いを誤魔化した。

 見慣れぬ応接室に赤城と二人、並んでソファに座っている瑞岐に、緊張感が舞い戻って来た。


 赤城と瑞岐は、二人で東京の練馬に訪れていた。

 練馬には日本陸軍の本部が置かれている。今日はそこに招かれたのだった。


 専門的な知識と技術を持った、学生時代から軍に入ることを目指してきた者が多い海軍、空軍と違い、専門的な教育を受けて来なかった学生や、民間企業からの中途採用者が多数を占めていた。

 海洋国家たる日本の最前線は空と海。故に地続きの国境の無い日本の陸軍は専守防衛。災害救助や日本本土の防衛が主であり、自衛隊だった頃の意思を最も強く引き継いだとも言える。

 その為、陸軍の所属を表す徽章のシンボルは『盾』。

 ここへ来るまでにすれ違った軍人たちは皆、肩から胸に刺繍された盾を身に着けていた。


 応接室に通されてから十五分ほどだろうか、しばらく経ってからドアがノックされた。

 条件反射で背筋を伸ばす瑞岐。赤城が扉の外に声をかけると、若い女性の軍人が入って来た。瑞岐は女性が両手で大事そうに持っているものに目を奪われた。

 一振りの日本刀だった。

「失礼いたします。陸軍情報部所属、川崎燕少尉。中将の補佐をしております」

 日本刀を抱えた女性は丁寧にお辞儀をした。両手が塞がっている為、敬礼ができない代わりだろう。

 肩まで伸ばした髪を後ろで一つで束ね、涼し気な顔立ちの美人だった。制服のタイトスカートがとてもよく似合っている。

「中将は間もなく参ります。もうしばらくお待ち下さい」

 川崎がそう告げた時、彼女の後ろから男の声が彼女を遮った。

「いや、その必要はない」

 男は川崎の横を通り、部屋に入って来た。

 隼翔ほどではないが、がっしりとした軍人らしい逞しい体に、黒の詰襟、黒の外套、黒の制帽を身に着けた男。

 男は赤城と瑞岐の姿を確認すると、制帽を取り陸軍式の敬礼をする。赤城はそれに海軍式の敬礼で返し、慌てて瑞岐も続く。

「お久しぶりです。赤城閣下」

 男は意思の強そうな黒の瞳が赤城を見る。

「それに…お前、瑞岐か?」

 瑞岐は突然名前を呼ばれ、少し驚く。男は気さくな笑みを浮かべて瑞岐に近づいてきた。

「大きくなったなあ、瑞岐!見違えたぞ!」

「はっはっは。成長期だからな。前にお前と会わせたのは何年前だったか」

 戸惑う瑞岐に代わり赤城が答えると、黒服の男は苦笑を浮かべる。

「瑞岐が来て間もない頃ですから、もう十年になります」

「十年か。私も年を取るものだ。お前は今年でいくつだったか」

「俺ももう今年でもう三十ですよ。早いものですね」


 今年三十歳ということは、この人は隼翔と同い年なのか。と、護衛役である友人を思い出した瑞岐。

 確か班目や、仲の良い船務科の三人も三十代だ。

 職業としての軍人が普及した昨今、要職につく年齢層も少しずつ若返っているのもあるのだが、赤城なりに気を使って、瑞岐の周辺には比較的年の若い者が集められていた。


「あの、赤城閣下。この方は?」

 自分の話題をされているのに、当の本人がなんのことかわかっていない。

 赤城は改めて瑞岐に男を紹介した。

「ああ、すまんな。子供の頃のことだ、覚えていないのも無理はない。

 彼は飛騨龍彦。陸軍中将にして、成瀬大佐と同じ特務魔術士官だ」

「え…?!この人が…?!」

 紹介された飛騨は、瑞岐に微笑んだ。

 外套から覗く軍服の、その胸には確かに陸軍を表す盾と、魔術士官にのみ与えられる黄金のシンボル…飛騨の場合は日本刀を模った黄金の徽章だった。

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