020 弾丸の魔女⑦
「こんな夜遅い時間にレディの部屋を訪ねるなんて、ニッポンの殿方はマナーがなってないのね」
スイートルームのリビングにあたる部屋で、大きなソファに王女は座っていた。
一番奥の部屋に隠してある瑞岐は、音を立てないようベッドに括りつけ、口も塞いだ。
この非常事態にも恭しく王女に挨拶をする班目を押しのけ、気の短い隼翔は前に出て声を上げた。
「オイ、チビ助!ミズキがここにいるのはわかってんだ!早く返せ!」
隼翔の接近に、エリー側のSPも王女を庇うように前に立つ。当のエリーはクスクス笑いだした。
「あら、どうして?ふふふ。
どうしてここにCrow Mancerがいると思うのかしら」
エリーは隼翔と、彼の手に居るカラスを交互に見ながら楽しそうに笑う。
「Crow Mancerは、一体どういう魔法を使ったのかしら」
いきり立つ隼翔を手で制し、班目が穏やかに口を開く。
「エリー王女。
先ほど街中で王女たちと一緒にいる烏使いを見たと、人づてに聞いたもので。
我々は、こんな時間になっても戻って来ない彼を心配して、こちらに訪ねてきた次第です」
班目は瑞岐の能力を知られまいと、咄嗟に嘘をつく。
「ニッポン人はウソが下手ね。エリーはそんなヘマはしないわ」
「てめえ…!」
隼翔が立ち上がると、エリーはモデルガンを取り出し、隼翔の頭に狙いを定める。
「エリーの質問に答えなさい。でないと、グリズリー。あなたの頭がザクロみたいになるわ」
掴みかかろうとしていた隼翔の動きが止まる。
エリーはSPに隼翔を取り押さえるよう促し、その通りSPは隼翔に近づく。
ヒュッ という風切り音がしたかと思うと、大柄なSPの身体が宙を舞う。
大きな音を立ててSPの体が床に叩きつけられる。
何が起きたかわからない!という顔で、隼翔とエリー、倒れたSPが目を見開く。
見ると、SPの太い腕を掴んだ班目がいた。彼は眼鏡の位置を直し、微笑む。
「私とて武人のはしくれ。柔道と合気道の心得くらいはある」
優男の班目が、エリーのSPを背負い投げしたのだった。
呆然とした一同に、班目が鋭く叫ぶ。
「高山少尉!ここは私が引き受ける!少尉は成瀬大佐を探してくれ!」
「お…おう!」
はっと気を取り戻し、隼翔は部屋の奥へ向かおうとする。
「だめ!!!ジョン、いつまで寝てるのよ!」
エリーはSPに喝を入れ、自分は班目に銃口を向ける。SPは隼翔を取り押さえるため立ち上がろうとする。
「させるか!」
班目は思い切り気合を入れると、両腕で自身の纏ったシャツを引き裂く。
「?????!!!!!!」
シャツが裂かれる音と共に、エリーとSPは声にならない悲鳴をあげた。
班目はあらわになった上半身と、胸につけたピンク色のレースのブラジャーを隠しもせず、むしろ見せつけるように仁王立ちして、隼翔に叫ぶ。
「今だ!少尉!!」
言いたいことは山ほどあるが、班目の姿に棒立ちのエリーとSPをすり抜け、隼翔は部屋の奥へ走る。
二人の横を通りすぎた時、「オーマイゴッ」とか「クレイジー ジャパン」とか聞こえたが、無視して走り抜けた。
「ミズキ!いるか?!返事しろ!!!」
隼翔は大声でスイートルームの全ての部屋を開けていく。
すると突如、手の中のカラスが暴れ出し、隼翔の腕から逃れると、一番奥の部屋へ飛んでいった。
「そこにいるのか?!ミズキ!」
カラスの示した扉を開けると、ガムテープで簀巻きにされた瑞岐が転がっていた。
隼翔は駆け寄ると、瑞岐の口を塞いでいたテープを剥がす。
「大丈夫か、ミズキ?!」
瑞岐は、隼翔の姿を確認すると、解放されたばかりの口を動かす。
「あ、赤い靴を履いた異人さんの女の子に連れて行かれるところだった……」
「何言ってんだ、お前」
若干、混乱しているようだった。
隼翔が瑞岐の拘束を解いていると、リビングの方からガシャン!と、何か壊れたような大きな音がした。
班目が一人で応戦していることを思い出し、二人はリビングに駆け込んだ。
「班目ッ!!」
同時に叫び、彼の元に戻って来た隼翔と瑞岐が見たのは、床に倒れ利き腕を抑え込まれ、モデルガンの銃口を突き付けられた班目。
「動かないで頂戴」
幼い少女の声がピシャリと空気を凍らせる。
「下手な真似をしたら、このHENTAIの頭がミンチになるわ」
エリーは小さな赤い靴の先端で班目を小突く。
「てめえ、ガキだからって調子に乗ってんじゃねえぞ。お前はイギリスと日本が戦争になってもいいってのか?!」
その場からは動かず、隼翔は怒鳴った。
「戦争?いいわ。お母さまだって言っていたもの。
戦争は停滞した経済、限界の科学技術、爆発的な人口増加…この世界の全ての憂いを断つ手段だもの!」
瑞岐も体を動かさず、魔力を発動させカラスを呼び寄せる。三つ足になった烏は瑞岐の左腕にとまった。
「馬鹿なことを言うな。エリー王女、僕は君に連行されていったとしても、君の為にこの力を使う気は無い」
二人の魔術師の緑の瞳が激しく火花を散らす。




