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HOLY WORLD  作者: (仮)
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017 弾丸の魔女④

 瑞岐はホテルに戻る道を歩きながら、姉から受け取った紙袋の中身を見た。

「…焼き鯖…素麺。…母さん、いつもこれ持ってくるな……」


 馴染みのない、生まれ故郷の郷土料理。

 物心つく前から横須賀にいた瑞岐には馴染みがないはずの郷土料理に、感じるこの安心感は、どういう意味があるのだろう。

 ほとんど一緒に住んでいた記憶などないけれど、家族に会うと感じる暖かいこの気持ちは、なんていうものなんだろう。


『オレは上司だとか、軍のためだとか、そういうよく分からんもんに命は懸けられない。

 でも、家族だとか、ダチだとか、大切な人間のためになら、命を懸けて飛べる』


 ふと、いつかハヤトが言っていた言葉を思い出す。

 よくわからないこの気持ちは、あいつなら知っていて、教えてくれるんじゃないか。

 何故か、そんな気がした。




 パァンッ!


 突如、空気の破裂するような音がして、瑞岐が持っていた紙袋が裂けた。

「え…?!」

 紙袋の中身は瑞岐よりも後方に飛ばされ、包装が破れた…というよりも破裂しており、食品の残骸がアスファルトに散乱していた。


「手を上げなさい」


 聞き覚えのある声に、瑞岐は振り向いた。

 その光景を見て、現在自分が置かれている状況を知った。


「抵抗したら、次はあなた自身を狙うわ。さあ、おとなしくわたしたちに着いてきてもらおうかしら」

 黒のロール・スロイスから身を出し、緑眼のエリーがモデルガンを構えていた。


 しまった。

 海軍本部の近くだからと油断して、携帯を許されている銃を持ち歩いてなかった。

 万一のことがあればカラスを使えばいいと思っていたが、こんな風に銃口を突き付けられた状態からでは、カラスを操る前に撃たれてしまう。

 なにより、こんな街中で戦闘機を出して爆撃する訳にはいかない。


 瑞岐は、黙って要求を呑むしかなかった。


 エリーは瑞岐を車に乗るよう指示し、運転手のSPに車を出させる。

 瑞岐と一緒に後部座席に乗り込んだエリーは、モデルガンを構えたままだ。

 恐る恐る、瑞岐は王女に尋ねた。

「エリー王女、一体どういうつもりだ?」

「ふふふ」

 幼い王女はにやりと笑う。

「ホテルに戻ったら教えてあげるわ。Crow Mancer、あなたが持っている通信機器を全て寄越しなさい」

 銃口を眉間に突き付けられ、瑞岐はポケットからスマホを取り出すとエリーに差し出した。

 受け取るや否や、エリーは端末の電源を切った。GPSで瑞岐の居場所を悟られないようにだろう。

「ジョン。車、もっと飛ばしなさい」

 エリーは運転手のSPに英語で指示を出す。


 車がホテルの駐車場に入った時、瑞岐はそのホテル名を確認する。

 横須賀市内にある海を望むリゾートホテル。

 その最上階のスイートルームに、エリーは宿泊していた。


 複数ある部屋のひとつに、瑞岐はガムテープで両手両足を拘束され、監禁された。

 大きなベッドと、小さい窓がひとつ。比較的小柄な瑞岐でも、流石にこの窓からは抜け出せそうにない。


「エリー王女、教えてくれ。なんでこんなことをするんだ。僕をどうする気だ」

 拘束され、床に転がったまま瑞岐は尋ねる。

 エリーは妖しい笑みを浮かべ、小さな手に握っていたモデルガンを放り投げた。

 瑞岐の顔の近くに座り込み、その顔を覗き込む。

「決まっているじゃない。Crow Mancer、あなたはエリーと一緒にイギリスへ行くの」

「は…?イギリス?!」

「そう、エリーには夢があるの」

 幼い王女は立ち上がり、両手を広げて天を仰いだ。


「全てを従え、全てを統べる。この世界で最上の枢要なる大英帝国を築き上げる!エリーはその女王になるの!

 この世界の全てがエリーに跪くのよ!!」


 あまりにも壮大な夢を語る幼女に、開いた口がふさがらない。

 エリーは悦に入りながら、くるくるとダンスを踊っている。


「Crow Mancer、あなたはクイーンを守るポーンになるの。私を守る騎士の栄えある一人目よ!」

「ば、馬鹿なことを言うな!世界征服なんて、大航海時代じゃないんだぞ!

 こんなことをして、子供のイタズラにしたって悪質すぎる!」

 瑞岐の言葉に、エリーはぷくっと頬を膨らませた。

「失礼ね。エリーはもう立派なレディなのに。

 …まあ、いいわ。あなたが泣いても喚いても、明日にはロンドン行きの駆逐艦の倉庫の中よ」

 ふわあ、と大きなあくびをして、エリーは瑞岐の頬にキスをしてから背を向ける。

「じゃあ、おやすみなさい。Crow Mancer」


 ドアが閉まる音と共に、絶望が瑞岐を襲った。

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