016 弾丸の魔女③
技術交換が終わると、英国の高官との談合がある赤城を残し、隼翔・瑞岐・班目の三人は海軍本部を後にする。
今日は帰りが夜遅くなるかもしれないと、赤城が横須賀中央駅近くのビジネスホテルを手配してくれた。
それぞれ一室ずつシングルルームを割り与えられたが、隼翔は瑞岐の部屋に来て、瑞岐の仕事の邪魔をしていた。
天津神にいる時もよく勝手に遊びに来ては、喋るだけ喋って帰っていく。
良い方向に考えるなら、真面目な瑞岐に息抜きさせるように気を使っている…かもしれない。
「やっぱり、別にオレ参加しなくてもよかったんじゃねーか?」
隼翔としては、さっさと自宅に帰って寝たかった。
「英国との技術交流のことか?そんなことないだろ。
お前は魔術師のこと、僕のことくらいしか知らないだろう」
「専らやってたのは、あのチビ助姫さんの遊び相手じゃねーか」
実技の後の会議で、難しい話に飽きた隼翔とエリーは、会議するみんなの後ろで仲良く遊んでいた。
エリー王女は隼翔の剛腕による、『凄い高い高い』がすこぶる気に入ったようだった。
「それはそうと、お前何やってんの」
「レポートだよ。浸水記念式典と、技術交流会の」
瑞岐は、パソコンの液晶画面から目を離さずに返事をする。
「はー。めんどくせーな、そーいうの。書く方も読む方も時間の無駄だっつーの」
「そりゃあ、僕だって書かなくていいなら書かないけどさ」
その時、瑞岐のスマホに着信が入る。
「……もしもし」
姉の瑞穂からだった。瑞岐はすぐに電話に出た。
『あ、もしもし瑞岐!仕事終わった?渡したいものあるんやけど、いま外出れへん?』
二人だけの会話だったので、つい方言が出てしまう瑞穂。
瑞穂との電話が終わると、瑞岐は立ち上がって上着を羽織った。
「悪いハヤト、外行ってくる」
「ん」
「じゃなくて。お前自分の部屋、帰れよ」
「ここオートロックだろ?気が向いたら帰るわ」
マイペースな友人を尻目に、ため息をつきながら部屋を出て、瑞穂との待ち合わせのコンビニに向かう瑞岐だった。
夜二十一時を回って空は真っ暗だったが、市街地なので道は街灯で明るかった。
瑞岐がコンビニの前にやってくると、それを見つけた瑞穂が駆け寄ってきた。
「瑞岐!ごめんなー。疲れとるのに呼び出して」
「ううん、大丈夫」
「これ、お母さんが瑞岐にって!」
そう言って瑞穂は持っていた紙袋を手渡した。
「うん、ありがと。母さんにもお礼言っといて」
瑞岐が微笑む。
ふと瑞穂は、前に会った時よりも、少し瑞岐の背が伸びたことに気付いた。
前回は確か半年以上前だった。
ここ二年くらいですっかり瑞岐は瑞穂の身長を追い抜いてしまった。
会う度に成長している弟。ずっと一緒に暮らしていたら気付かないかもしれない微妙な変化を感じることが、やけに寂しかった。
「姉ちゃん、泊ってるのどこ?送って行くよ」
「あ!だいじょうぶ!泊っとるの、すぐそこやから!」
暗い顔になりかけた瑞穂は、誤魔化して笑った。
「瑞岐こそ。気を付けてね」
「もう子供じゃないんだし、それくらい平気だよ」
別れ際、瑞穂は瑞岐を抱きしめる。恥ずかしくて瑞岐は嫌がるから、すぐに離したけれど。
「またね!瑞岐!今度はお父さんやお母さんも連れて来るね!」
手を振りながら、瑞穂は瑞岐の背中を送った。




