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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第90話 二つの世界で始まる未来

第90話 二つの世界で始まる未来


 日曜日の朝。


 黒瀬家の食卓には、いつもの穏やかな空気が流れていた。


「お兄ちゃん、今日も勉強?」


 陽菜がトーストをかじりながら尋ねる。


「うん。少しだけね」


 怜司が答えると、陽菜は不思議そうに首を傾げた。


「最近、すごく真面目だよね」


「そうかな?」


「そうだよ! 前よりずっと楽しそうに勉強してるもん」


 美咲が微笑んだ。


「何か目標ができたの?」


 怜司は少し考えた。


「……うん。将来、自分で稼げるようになりたいんだ」


 正臣が新聞から顔を上げた。


「自分で稼ぐ?」


「うん。仕事とか、商売とか、いろいろ勉強してみたい」


 正臣は静かに頷いた。


「いいことだな」


「そう?」


「ああ。ただし、焦る必要はないぞ」


 怜司は父を見つめた。


「まずは、ちゃんと学ぶことだ。何かを始めるなら、仕組みを理解してからでも遅くない」


「……うん」


 怜司は微笑んだ。


「ありがとう、父さん」


 美咲も頷いた。


「無理だけはしないでね」


「分かってるよ」


 陽菜が笑う。


「お兄ちゃんがお金持ちになったら、私にケーキ買ってね!」


「はは。もちろん」


「約束だからね!」


 家族の笑い声が、食卓に広がった。


 怜司はその光景を見つめながら思った。


 守りたいものは、もうはっきりしている。


 この温かな時間を、ずっと大切にしたい。


     ◇


 翌日。


 聖蘭学園では、研究班の最終発表に向けた準備が進んでいた。


「今回の研究では、子供たちの運動への意欲を調べました」


 澪が資料を確認する。


「ただし、一度の体験会だけでは長期的な変化を判断できない、という点も大切ですね」


 蒼真が頷いた。


「そうだね。そこは誤解のないように説明しよう」


 詩織が集計表を示した。


「三十二名のうち二十九名が、また運動したいと回答しました」


「すごい数字だよな!」


 隼人が笑う。


「でも、改善点もちゃんとある」


 怜司が言う。


「待ち時間とか、説明の分かりやすさとか」


「その通りですわ」


 麗華が頷いた。


「よかった点だけでなく、次に改善すべきことも発表しましょう」


 六人は顔を見合わせた。


 研究活動を通じて、互いの得意なことが分かってきた。


 意見が違うときもあった。


 準備が大変な日もあった。


 けれど、全員で協力してここまで来た。


「……みんなと一緒にできてよかった」


 怜司が呟く。


 澪が微笑んだ。


「私もです、レイジさん」


 麗華も頷いた。


「本当に、よい経験になりましたわ」


 詩織は小さく微笑み、隼人は元気よく笑った。


「よし! 最後まで頑張ろうぜ!」


     ◇


 放課後。


 怜司は図書室で、一人の時間を過ごしていた。


 机の上には、経営や会計に関する本が並んでいる。


 ベルン商会との取引を通じて、学ぶべきことがはっきりしてきた。


 売上。


 利益。


 経費。


 在庫。


 そして、信用。


 どれも、商売を続けるうえで欠かせないものだ。


「……なるほど」


 怜司はノートへ書き込んだ。


 異世界で得た経験を、日本での学びにも生かしていく。


 ただし、日本で事業を行うには、日本の法律や税金についても理解する必要がある。


 異世界の貨幣を、そのまま日本の銀行口座へ入れられるわけではない。


 だからこそ、焦らず進めるつもりだった。


 まずは、知識を身につける。


 そのうえで、自分にできることを探していく。


     ◇


「黒瀬君」


 声をかけられ、怜司が顔を上げた。


 そこには、藤宮詩織が立っていた。


「詩織さん」


「……また、勉強していたんですね」


「はい。ちょっと分からないところがあって」


 詩織は机の上の本を見た。


「会計の本ですね」


「そうなんです」


 怜司は苦笑した。


「読んでると、知らない言葉がどんどん出てきて」


 詩織は微笑んだ。


「よかったら、一緒に考えませんか?」


「いいんですか?」


「はい」


 怜司は嬉しそうに頷いた。


「ありがとうございます」


 二人は並んで座り、本を開いた。


 詩織は丁寧に説明し、怜司は真剣に耳を傾ける。


 その穏やかな時間が、詩織にはとても心地よかった。


     ◇


 一方。


 九条院澪は、自室で週末の予定を確認していた。


 怜司との三度目のお出かけ。


 以前から気になっていた美術館へ行こうと考えている。


「……楽しみですね」


 澪は小さく微笑んだ。


 水族館で過ごした時間。


 交わした言葉。


 怜司の優しい笑顔。


 思い出すだけで、胸が温かくなる。


 彼との関係は、まだ恋人同士ではない。


 けれど、少しずつ距離が縮まっていることは感じていた。


「……レイジさん」


 澪は小さく名前を呼んだ。


 もっと彼のことを知りたい。


 もっと一緒にいたい。


 その気持ちは、日に日に強くなっていた。


     ◇


 同じ頃。


 西園寺麗華も、週末の予定を考えていた。


 怜司との初めての私的なお出かけ。


 どこへ行こうか。


 何を話そうか。


 考えるだけで、胸が高鳴る。


「……落ち着きなさい、麗華」


 自分に言い聞かせる。


 けれど、頬の熱はなかなか引かなかった。


 九条院澪。


 藤宮詩織。


 そして、最近少し様子の変わってきた橘美月。


 怜司を取り巻く少女たちは、少しずつ自分の気持ちに気づき始めている。


 麗華は静かに微笑んだ。


「……私も、負けませんわ」


     ◇


 その夜。


 怜司は自室で、窓の外を見つめていた。


 日本。


 異世界ルミエール。


 二つの世界で、自分の人生が動き始めている。


 家族との時間。


 友人たちとの学校生活。


 新しく芽生えた人間関係。


 そして、冒険者としての成長と商売への挑戦。


 どれも、大切にしたかった。


「……忙しくなりそうだな」


 怜司は小さく笑った。


 けれど、その声には不安よりも期待があった。


 以前の自分なら、未来を考えることが怖かった。


 何をしても変わらないと思っていた。


 けれど今は違う。


 自分の行動で、少しずつ未来を変えていける。


 そのことを、怜司は知っていた。


 スマートフォンが震える。


 澪からのメッセージだった。


『レイジさん。週末のお出かけ、楽しみにしています』


 怜司は微笑んだ。


『僕も楽しみです。よろしくお願いします』


 送信した後、少しだけ胸が高鳴った。


 澪と過ごす時間は、いつも心地よい。


 そして、麗華との約束も楽しみだった。


 自分の周りで何が起きているのか。


 まだ、すべてを理解しているわけではない。


 けれど、誰かが自分を大切に想ってくれること。


 それが、どれほど嬉しいことなのか。


 怜司は少しずつ分かり始めていた。


「……よし」


 怜司は明かりを消した。


 明日も、きっと新しい一日が始まる。


 強くなること。


 学ぶこと。


 稼ぐこと。


 そして、大切な人たちと幸せに生きること。


 そのすべてを手に入れるために、少年はこれからも歩み続ける。


 二つの世界で始まった新しい人生は、まだまだ続いていくのだった。

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