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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第83話 発表会前夜の約束

第83話 発表会前夜の約束


 スポーツ体験会を翌日に控えた金曜日。


 聖蘭学園の研究室には、いつも以上に慌ただしい空気が流れていた。


「参加予定者は、最終的に三十二名です」


 西園寺麗華が資料を確認する。


「保護者の皆様への案内も、すべて完了しております」


「ありがとうございます」


 九条院澪が頷いた。


「安全管理についても、先生方との確認が終わりました」


「備品は問題なし」


 一条蒼真がチェック表に印をつける。


「予算内に収まっているよ」


「競技の準備も完璧!」


 神崎隼人が親指を立てた。


「……隼人」


 蒼真が静かに言う。


「完璧と言う前に、昨日忘れた笛は持ってきたのか?」


「持ってきたって!」


 隼人はポケットから笛を取り出した。


「ほら!」


「ならいい」


 そのやり取りに、全員が笑った。


 藤宮詩織は、アンケート用紙を丁寧に揃えていた。


「終了後の質問は、子供たちが答えやすいように簡単な言葉にしています」


「ありがとうございます、詩織さん」


 怜司が声をかける。


「これなら、低学年の子も分かりやすそうですね」


「……はい」


 詩織は少し嬉しそうに微笑んだ。


 準備は、ほぼ整っていた。


 それでも、怜司の胸には小さな緊張があった。


 自分たちが考えた活動に、三十二人もの子供たちが参加する。


 全員が楽しく過ごせるだろうか。


 怖い思いをする子はいないだろうか。


 考え始めると、心配は尽きなかった。


     ◇


「怜司、難しい顔してるぞ」


 隼人が肩を叩いた。


「そうかな」


「そうだって。もっと気楽にいこうぜ!」


「でも、子供たちに怪我をさせるわけにはいかないから」


「それはもちろんだけどさ」


 隼人は笑った。


「俺たち、ちゃんと準備しただろ?」


 怜司は仲間たちを見渡した。


 何度も話し合った。


 問題が見つかれば修正した。


 分からないことは先生に相談した。


 六人で、一つずつ積み上げてきた。


「……うん。そうだね」


 怜司は微笑んだ。


「明日は、みんなで頑張ろう」


「おう!」


 隼人が元気よく答えた。


     ◇


 最後の確認が終わり、メンバーたちは少しずつ帰り支度を始めた。


 怜司が資料を鞄へしまっていると、澪が近づいてきた。


「レイジさん」


「はい、澪さん」


「少し、お時間をいただいてもよろしいですか?」


「もちろんです」


 二人は教室の窓際へ移動した。


 夕日が、澪の長い黒髪を柔らかく照らしている。


「明日のことではないのですが……」


 澪は少しだけ言葉を選んだ。


「体験会が終わって落ち着いたら、また一緒にお出かけしませんか?」


 怜司は目を瞬かせた。


「お出かけ、ですか?」


「はい」


 澪は微笑んだ。


「以前の水族館も、とても楽しかったので」


 怜司の顔が自然と明るくなる。


「僕も楽しかったです」


「……本当ですか?」


「もちろんです」


 怜司は頷いた。


「ぜひ、また行きましょう」


 澪の表情が、ぱっと明るくなった。


「ありがとうございます」


「今度はどこに行きましょうか」


「実は、少し考えている場所があるんです」


「楽しみですね」


「……はい」


 澪は嬉しそうに微笑んだ。


 その横顔を、少し離れた場所から麗華が見ていた。


 何を話しているのか、すべて聞こえたわけではない。


 けれど、二人の表情だけで十分だった。


 澪は、確実に怜司との距離を縮めている。


「……さすがですわね」


 麗華は小さく呟いた。


 羨ましくないと言えば、嘘になる。


 けれど、それ以上に思った。


 自分も、動かなければ。


     ◇


 廊下へ出た麗華に、詩織が声をかけた。


「西園寺さん」


「藤宮さん。どうかなさいましたか?」


 詩織は少し迷った様子だった。


 けれど、やがて静かに口を開いた。


「……九条院さん、黒瀬君と仲がいいですね」


 麗華は一瞬、言葉を止めた。


「ええ。そうですわね」


「……西園寺さんも、ですよね」


 詩織は麗華を見つめた。


 その瞳には、普段の控えめな雰囲気とは違う、確かな意思が宿っていた。


「私も、黒瀬君と一緒にいる時間が好きです」


 麗華は静かに息を呑んだ。


 詩織は視線を逸らさなかった。


「だから……私も、もう少し頑張ってみようと思います」


 麗華は、やがて微笑んだ。


「……そうですか」


 不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。


 詩織もまた、怜司の優しさに触れ、彼を大切に想うようになったのだろう。


 その気持ちを否定することはできない。


「藤宮さん」


「はい」


「お互い、後悔のないようにいたしましょう」


 詩織は少し驚いた後、小さく微笑んだ。


「……はい」


 麗華はその背中を見送りながら考えた。


 九条院澪だけではない。


 藤宮詩織も、確かに怜司へ想いを寄せている。


 恋は、思っていたよりずっと複雑になりそうだった。


     ◇


 その夜。


 怜司は自室で、明日の予定を確認していた。


 集合時間。


 競技の順番。


 子供たちへの声かけ。


 何度も見直した資料には、仲間たちと考えた工夫が詰まっている。


 スマートフォンが震えた。


 澪からのメッセージだった。


『レイジさん。明日はよろしくお願いします』


 怜司は微笑んだ。


『こちらこそ。みんなで成功させましょう』


 すぐに返事が届く。


『はい。それから、今日のお約束も楽しみにしています』


 怜司は少し照れながら返信した。


『僕も楽しみです』


 送信した後、椅子にもたれる。


 明日の体験会が終われば、研究活動も一区切りだ。


 以前なら、誰かと何かを成し遂げることなど想像できなかった。


 今は違う。


 信頼できる仲間がいる。


 一緒に笑ってくれる人たちがいる。


 そして、また会いたいと誘ってくれる人もいる。


「……頑張ろう」


 怜司は小さく呟いた。


 明日、子供たちが笑って帰れるように。


 そのために、自分のできることを精一杯しよう。


 窓の外には、静かな夜空が広がっていた。


 少年と仲間たちが準備してきた一日が、いよいよ始まろうとしていた。

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