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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第80話 親友たちは気づいている――鈍感な少年と恋する少女たち

第80話 親友たちは気づいている――鈍感な少年と恋する少女たち


「……なあ、蒼真」


 昼休みの聖蘭学園。


 中庭のベンチに座った神崎隼人は、深刻そうな顔で口を開いた。


「俺たち、そろそろ怜司に教えてやった方がいいんじゃないか?」


「何を?」


 一条蒼真がサンドイッチを置く。


「自分がどんな状況にいるのかってことだよ」


「ああ……」


 蒼真はすぐに理解した。


「女の子たちのこと?」


「そう!」


 隼人は勢いよく頷いた。


「澪さんはもう分かりやすいだろ? 麗華さんも最近明らかに距離が近いし、詩織さんだって怜司と話すときだけ雰囲気違うじゃん」


「美月さんも、昨日は少し様子が違ったね」


「だろ!?」


 隼人は頭を抱えた。


「なのに本人は、みんな仲良くしてくれて嬉しいなあ、で終わってんだぞ!」


 蒼真は苦笑した。


「まあ、怜司らしいと言えば怜司らしいけど」


「いや、限度があるだろ!」


 そのとき。


「何の話?」


 背後から声がした。


「うわっ!?」


 隼人が飛び上がる。


 振り返ると、当の本人である黒瀬怜司が立っていた。


「どうしたの、隼人?」


「い、いや! 何でもない!」


「そう?」


 怜司は不思議そうに首を傾げた。


 蒼真が笑いをこらえながら言う。


「ちょうど君の話をしていたんだよ」


「俺の?」


「うん。最近、ずいぶん忙しそうだなって」


「ああ、研究発表会のこと?」


 怜司は納得したように頷いた。


「でも、みんなのおかげで順調だよ」


 隼人は蒼真を見る。


 蒼真も隼人を見る。


 そして、二人は同時に思った。


(……本当に気づいてない)


 ◇◆◇


「ところで怜司」


 蒼真が何気ない調子で尋ねた。


「最近、澪さんとはどうなの?」


「どうって?」


「この前も一緒に出かけたんだろう?」


「ああ、水族館に行ったよ」


 怜司は嬉しそうに笑った。


「すごく楽しかった。澪さんも喜んでくれたみたいで」


「へえ」


 隼人が身を乗り出す。


「で?」


「で?」


「それだけ?」


「うん?」


 隼人は額を押さえた。


「お前さあ……」


「何?」


「いや、もういい」


 蒼真が静かに笑う。


「怜司は、澪さんのことをどう思っているの?」


「大切な友達だよ」


「……それだけ?」


 怜司は少し考えた。


「一緒にいると落ち着くし、すごく優しいし……もっといろんなところに一緒に行けたらいいなって思う」


 蒼真の眉がわずかに上がった。


「それは、かなり特別な気持ちじゃないかな」


「そうかな?」


「そうだと思うよ」


 怜司は少し照れくさそうに笑った。


「まあ、澪さんは特別な人だとは思ってる」


 その言葉に、隼人が勢いよく顔を上げた。


「おっ!?」


「でも、今は研究発表会を成功させたいし、みんなとの時間も大事にしたいから」


「……なるほどね」


 蒼真は穏やかに頷いた。


 怜司は決して、恋愛に興味がないわけではない。


 ただ、自分の気持ちを急いで結論づけようとしていないのだ。


 そして何より、誰かの好意を勝手に決めつけることをしない。


 その慎重さは、彼らしいとも言えた。


「じゃあ、麗華さんは?」


 隼人が尋ねる。


「麗華さん? すごく頼りになるよ。文章も上手だし、考え方がしっかりしてる」


「詩織さんは?」


「頭が良くて、説明が丁寧。研究のことを教えてもらってる」


「美月さんは?」


「運動が得意で、明るくて、一緒にいると楽しいよ」


「……お前なあ!」


 隼人が天を仰いだ。


「全員、褒め方が自然すぎるんだよ!」


「えっ!? 何か変なこと言った!?」


「言ってない! だから困ってんだ!」


 蒼真はついに笑い出した。


「隼人、落ち着いて」


「これが落ち着いていられるか!」


 怜司はますます困惑する。


「二人とも、どうしたの?」


「……いや」


 蒼真は笑いを収めた。


「君は、そのままでいいと思うよ」


「そう?」


「うん。ただ、誰かが君に大切な気持ちを伝えてくれたら、そのときはちゃんと向き合ってあげてね」


 怜司は真剣な顔になった。


「……うん。それはもちろん」


 その返事には、迷いがなかった。


 蒼真は安心したように微笑む。


「それなら大丈夫だよ」


 ◇◆◇


 午後の放課後。


 研究発表会の準備のため、六人は再び集まっていた。


「黒瀬さん、募集案内の修正版をお持ちしましたわ」


 麗華が資料を差し出す。


「ありがとう、麗華さん!」


「お時間があれば、後で一緒に確認していただけますか?」


「もちろん!」


「レイジさん」


 今度は澪が声をかける。


「安全対策について、先生から追加の確認事項をいただきました」


「そっか。じゃあ、それも見ないとね」


「はい。わたくしもご一緒します」


「黒瀬君」


 詩織が控えめに手を上げた。


「アンケートの試作版もできました。後で意見を聞かせてもらえますか?」


「うん、ぜひ!」


 その様子を見ていた隼人は、蒼真の肩をつかんだ。


「……なあ」


「うん」


「これ、もう始まってるよな?」


「何が?」


「分かってるくせに!」


 蒼真は笑った。


「少なくとも、みんな怜司と一緒に仕事をしたいんだろうね」


「お前、言い方が上手いな……」


 そこへ、校庭から戻ってきた美月が顔を出した。


「怜司ー!」


「あ、美月さん!」


「昨日の競技、改良版を考えたんだ! あとで試してくれない?」


「いいよ!」


「やった!」


 美月は満面の笑みを浮かべた。


 だが、その直後。


 澪と麗華、詩織の視線が、同時に美月へ向いた。


「……あれ?」


 美月が首を傾げる。


「どうかした?」


「いいえ」


 澪が微笑む。


「橘さんも、熱心に協力してくださって嬉しいです」


「そうですわね」


 麗華も上品に頷く。


「とても心強いですわ」


「う、うん! ありがとう!」


 美月は笑顔で答えた。


 けれど、なぜだろう。


 少しだけ、背筋が伸びた。


 隼人が蒼真に耳打ちする。


「……増えたぞ」


「何が?」


「だから、分かってるだろ!」


 蒼真は肩を震わせた。


 ◇◆◇


 その日の帰り道。


 隼人と蒼真は、校門の近くで足を止めた。


「なあ、蒼真」


「何?」


「俺、ちょっと怜司が羨ましいわ」


「そう?」


「そりゃそうだろ。あんなに可愛い子たちに囲まれてるんだぞ?」


 蒼真は苦笑した。


「でも、怜司は誰かに好かれようとして行動しているわけじゃないからね」


「まあ、それはそうなんだけど」


「人の話をちゃんと聞いて、相手の良いところを認めて、困っていたら助ける。そういう積み重ねが、今の関係につながっているんだと思うよ」


 隼人は少し黙った。


 そして、ふっと笑った。


「……確かにな」


 かつての怜司が、どんな経験をしてきたのか。


 二人は、そのすべてを知っているわけではない。


 けれど、今の彼が周囲の人間を大切にしていることは知っている。


 だからこそ、友人として応援したい。


「でもさ」


 隼人が口を開く。


「もし本当に誰かが告白してきたら、どうなるんだろうな」


「それは、怜司自身が決めることだよ」


「だよなあ」


 隼人は空を見上げた。


「……それにしても、あいつ、いつ気づくんだろ」


 蒼真は笑った。


「案外、僕たちが思っているより早いかもしれないよ」


「本当か?」


「さあ。どうだろうね」


 二人は顔を見合わせ、笑い合った。


 その頃、当の怜司はというと。


「……よし。次は安全対策の資料をまとめよう」


 自宅の机に向かい、真剣な顔で研究発表会の準備を進めていた。


 机の上には、澪から受け取った資料。


 麗華が作った募集案内。


 詩織がまとめたアンケート。


 そして、美月が考案した競技の改善案が並んでいる。


「みんな、本当にすごいな……」


 怜司は小さく笑った。


「俺も頑張らないと」


 その胸にあるのは、仲間たちへの感謝と、企画を成功させたいという強い思い。


 けれど、彼はまだ知らない。


 その仲間たちの中に、自分へ特別な感情を抱き始めた少女が何人もいることを。


 そして。


 来月の研究発表会が、彼らの関係をさらに大きく動かすきっかけになることを。


 少年の知らないところで、恋の物語は静かに進み始めていた。

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