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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第78話 笑顔の裏の宣戦布告――二人の令嬢が交わした言葉

第78話 笑顔の裏の宣戦布告――二人の令嬢が交わした言葉


 放課後の聖蘭学園。


 西園寺麗華は、完成した募集案内の下書きを手に、廊下を歩いていた。


 昨日、黒瀬怜司と二人で相談しながら作ったものだ。


 内容はまだ修正が必要だったが、企画の目的や安全対策については、かなり分かりやすくまとめられたと思う。


 何より。


(……楽しい時間でしたわ)


 怜司は、文章の細かな表現にまで真剣に向き合ってくれた。


 難しい言葉を使いすぎていないか。


 保護者が読んで安心できる内容になっているか。


 自分たちの都合ばかり書いていないか。


 そんなことを一緒に考えるうちに、気づけば予定の時間を大幅に過ぎていた。


 それでも、少しも退屈しなかった。


「西園寺さん」


 廊下の先から声がした。


 顔を上げると、九条院澪が立っていた。


「あら、九条院さん。ごきげんよう」


「ごきげんよう。少しお時間をいただいてもよろしいですか?」


「もちろんですわ」


 二人は窓際の談話スペースへ移動した。


 そこは放課後になると人通りが少なくなり、落ち着いて話ができる場所だった。


「募集案内、拝見しました」


 澪が口を開く。


「とても分かりやすくまとめられていましたね」


「ありがとうございます。黒瀬さんにもお手伝いいただきましたの」


「そうだったんですね」


 澪は穏やかに微笑んだ。


 けれど、麗華はその笑顔の奥に、ほんの小さな変化を感じ取った。


(……やはり、気になりますのね)


「黒瀬さんは、本当に熱心な方ですわ」


「ええ。レイジさんは、いつもそうなんです」


 レイジさん。


 その呼び方が、麗華の耳に残った。


 親しさを隠そうとしない、自然な愛称。


「九条院さんは、黒瀬さんと随分親しくしていらっしゃるのですね」


「はい。大切なお友達ですから」


 澪は少しだけ頬を染めた。


 麗華は、その変化を見逃さなかった。


「……お友達、ですのね?」


「え?」


「いいえ。少し気になっただけですわ」


 麗華は微笑んだ。


「お二人は、とてもお似合いに見えますから」


 澪の頬が、さらに赤くなる。


「そ、そんな……」


 その反応は、あまりにも分かりやすかった。


 麗華は胸の中で小さく息をつく。


(やはり、そういうことですのね)


 九条院澪は、黒瀬怜司に好意を抱いている。


 そして、おそらく。


 それは単なる憧れではない。


「ですが、九条院さん」


 麗華は静かに言った。


「黒瀬さんは、まだどなたの恋人でもありませんわよね?」


 空気が、ほんの少しだけ変わった。


 澪は驚いたように麗華を見る。


「……ええ。そうです」


「でしたら、わたくしが親しくさせていただいても、問題はありませんわよね?」


 言ってから、麗華自身も少し驚いた。


 こんな言葉を口にするつもりはなかった。


 けれど、なぜか引き下がりたくなかったのだ。


 澪はしばらく黙っていた。


 そして、ゆっくりと微笑んだ。


「もちろんです。レイジさんが誰と親しくするかは、レイジさんご自身が決めることですから」


「……そうですわね」


「ただ」


 澪は麗華をまっすぐに見つめた。


「わたくしにとって、レイジさんがとても大切な方なのは、本当です」


 その声は柔らかかった。


 けれど、迷いはなかった。


 麗華は思わず目を見開く。


 そして、ふっと笑った。


「……九条院さんは、思っていたよりも大胆ですのね」


「西園寺さんこそ」


 二人は顔を見合わせた。


 次の瞬間、どちらからともなく小さく笑い声が漏れる。


「なんだか、変なお話になってしまいましたね」


「ええ。本当ですわ」


 麗華は胸元に手を当てた。


「でも、少し安心いたしました」


「安心、ですか?」


「九条院さんが、きちんとご自分のお気持ちを大切にしていらっしゃることが分かりましたから」


 澪は驚いたように瞬きした。


「……西園寺さん」


「わたくしも、同じようにしたいと思います」


 それは、静かな宣言だった。


 誰かを傷つけたいわけではない。


 誰かから奪いたいわけでもない。


 ただ、自分の心に嘘をつきたくない。


 それだけだった。


 ◇◆◇


 談話スペースを出た二人は、偶然にも廊下の向こうから歩いてくる怜司を見つけた。


「あ、澪さん! 麗華さんも!」


 怜司が笑顔で手を振る。


「二人とも、何してたの?」


「少しお話をしていたんです」


 澪が答える。


「そうなんだ。ちょうどよかった。企画書の修正版ができたから、二人にも見てもらいたくて」


「もちろんですわ」


 麗華が即座に答えた。


「わたくしも確認いたします」


「助かるよ!」


 怜司は二人の間に立ち、資料を広げた。


「ここの安全対策なんだけどさ……」


 彼は真剣に説明を始める。


 澪と麗華は、その言葉に耳を傾けた。


 だが、時折。


 二人の視線が、静かに交差する。


「レイジさん、この部分は先生にも確認していただいた方がよいと思います」


「確かに。ありがとう、澪さん」


「黒瀬さん、こちらの表現も少し変えた方がよろしいかと」


「なるほど。麗華さん、さすがだね」


 怜司は二人の意見を素直に取り入れていく。


 そして、嬉しそうに笑った。


「やっぱり二人とも頼りになるなあ」


「……ふふ」


「……そうですわね」


 澪と麗華は、ほとんど同時に微笑んだ。


 その光景を、少し離れた場所から見ている者がいた。


 神崎隼人と一条蒼真だった。


「……なあ、蒼真」


「何?」


「あれ、なんか空気が違わないか?」


「……君も気づいた?」


「やっぱり?」


 隼人は額に手を当てた。


「怜司のやつ、絶対分かってないよな」


「分かっていたら、あんなに無邪気に笑っていないと思うよ」


 二人は顔を見合わせる。


 そして、同時にため息をついた。


「……大変なことになりそうだな」


「そうだね」


 けれど、蒼真は少し楽しそうに笑った。


「まあ、悪いことではないと思うよ」


「そりゃそうだけどさ」


 隼人はもう一度、三人の方を見る。


 怜司は相変わらず、企画書の説明に夢中だった。


 その左右では、二人の令嬢が穏やかな笑顔を浮かべている。


 誰も声を荒らげない。


 誰も相手を貶めない。


 けれど、その間には確かに、見えない火花が散っていた。


 九条院澪と西園寺麗華。


 二人の令嬢の、静かな恋の競争が始まろうとしていた。

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