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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第71話 旧友との約束――変わった姿と変わらない友情

 土曜日の午前九時四十分。


 黒瀬怜司は、駅前の時計台の下でスマートフォンを確認していた。


『悪い! あと五分!』


 相沢直人からのメッセージだった。


「相変わらずだな、相沢」


 怜司は笑いながら、『ゆっくりでいいよ』と返信した。


 今日は、以前から約束していた映画を観に行く日だ。


 聖蘭学園への転校が決まる前から、相沢とは休日に遊ぼうと話していた。


 転校試験や新しい学校生活で予定が延びてしまったものの、ようやく実現したのである。


 怜司は、駅前のガラスに映った自分を見た。


 黒いシャツに、落ち着いた色のパンツ。先日、家族と買いに行った服だ。


 以前は身体を隠すような大きな服ばかり選んでいた。


 だが、今は自分に合った服を着ることに抵抗がない。


 体重は七十キロ台前半まで落ち、顔立ちもすっかり整っていた。


 それでも、相沢と会うことに少し緊張していた。


 転校後、連絡は取り合っていた。


 しかし、実際に顔を合わせるのは久しぶりだ。


「……何か、変な感じだな」


 そう呟いたときだった。


「黒瀬ー!」


 聞き慣れた声が響いた。


 振り返ると、相沢が人混みの向こうから走ってくる。


「悪い、待たせ……」


 そこまで言った相沢が、急停止した。


「…………は?」


 怜司は首を傾げた。


「おはよう、相沢」


「…………」


「どうした?」


 相沢は、怜司の顔を凝視した。


 そして、一歩近づいた。


「……黒瀬?」


「そうだけど」


「お前……」


 相沢は、両手で頭を抱えた。


「誰だよ!?」


「だから俺だって!」


「いや、声は黒瀬なんだよ! でも顔が違うだろ!」


 駅前で響いた大声に、通行人が何人か振り返った。


 怜司は慌てた。


「ちょっと、声が大きい!」


「これが驚かずにいられるか!」


 相沢は、もう一度怜司を上から下まで見た。


「お前、最後に会ったときから何キロ痩せた?」


「何キロって……結構かな」


「結構どころじゃねえよ!」


 相沢は、呆然とした顔で言った。


「……普通にモデルみたいになってんじゃん」


 怜司は、耳まで赤くなった。


「やめろって」


 相沢は、しばらく黙っていた。


 そして、突然吹き出した。


「ははっ! すげえな、お前!」


「……何が?」


「いや、何か嬉しくなっちまった!」


 相沢は、怜司の肩を叩いた。


「元気そうじゃん!」


 その一言に、怜司は思わず笑顔になった。


「……うん。元気だよ」


「ならよし!」


 相沢は、満足そうに頷いた。


「ほら、映画始まるぞ!」


     ◇ ◇ ◇


 二人が選んだのは、人気のSFアクション映画だった。


 最新の映像技術を使った宇宙戦闘と、仲間を守るために戦う主人公の物語。


 映画館を出た瞬間、相沢が興奮した声を上げた。


「いやー! 最後の戦闘、めっちゃよかったな!」


「分かる!」


 怜司も笑った。


「最初に出てきた小型機が、最後の作戦で役に立つとは思わなかった」


「そうそう! あれ、伏線だったんだな!」


 二人は、そのままフードコートへ向かった。


 昼食を注文し、窓際の席に座る。


 相沢はハンバーガーを頬張りながら言った。


「で、どうなんだよ。聖蘭学園」


 怜司は、飲み物を置いた。


「……すごく楽しい」


「おっ」


「授業も面白いし、みんな親切だし」


 怜司は、自然と笑顔になった。


「友達もできたんだ」


 相沢は、少しだけ目を細めた。


「そっか」


「一条蒼真っていう、経済とか経営に詳しい奴と、神崎隼人っていうスポーツがすごく得意な奴」


「へえ!」


「二人とも、本当にいい奴なんだ」


 怜司は、先日のバスケットボールの練習や、休日に三人で遊んだ話をした。


 相沢は、楽しそうに聞いていた。


「何だよ。めっちゃ青春してんじゃん!」


「……そうかな」


「そうだろ!」


 相沢は笑った。


 だが、ふと表情を落ち着かせた。


「……よかったな、黒瀬」


 怜司は顔を上げた。


「……うん」


「前はさ、お前、学校の話なんかしたがらなかっただろ」


 怜司は、静かに頷いた。


 以前の学校生活。


 鷹宮たちからのいじめ。


 周囲の冷たい視線。


 あの頃は、学校のことを考えるだけで気分が沈んだ。


 だが、今は違う。


「……本当に、変わったと思う」


 怜司が言うと、相沢は笑った。


「顔だけじゃなくてな」


 怜司は、少し驚いた。


「……え?」


「お前、よく笑うようになったよ」


 その言葉に、怜司はしばらく黙った。


 そして、小さく笑った。


「……そうかもしれない」


     ◇ ◇ ◇


 昼食後。


 二人はゲームセンターへ向かった。


 相沢が真っ先に向かったのは、対戦型のレースゲームだった。


「勝負しようぜ!」


「いいよ」


「言っとくけど、俺、結構強いからな!」


 怜司は笑った。


「知ってる」


 二人は隣同士の席に座った。


 ゲーム開始。


 相沢は慣れた操作で、最初から先頭へ飛び出した。


「よし!」


 怜司は、少し遅れてスタートした。


 画面の中を走る車。


 コーナーの角度。


 アクセルとブレーキのタイミング。


 《万象習得》が、操作の感覚を少しずつ整理していく。


 だが、怜司は思った。


 ――ここで全部覚えて圧勝するのも、何か違うよな。


 もちろん、わざと負けるつもりはない。


 ただ、相沢と競い合う時間を楽しみたかった。


「おっ、黒瀬! 追いついてきたな!」


「まだまだ!」


 二人は、笑いながらハンドルを操作した。


 最終コーナー。


 相沢が、絶妙なラインで抜けていく。


 怜司も追いかけた。


 だが、わずかに届かない。


 結果は、相沢の勝利だった。


「よっしゃあ!」


 相沢が拳を突き上げた。


「勝った!」


 怜司は、思わず笑った。


「やっぱり強いな!」


「だろ!」


 相沢は、得意げに笑った。


 そして、もう一度画面を見た。


「……でも、お前も上手くなってるな」


「相沢にはまだ勝てないけどね」


「次はもっと本気で来いよ!」


「もちろん!」


 そんな何気ないやり取りが、怜司には嬉しかった。


     ◇ ◇ ◇


 夕方。


 二人は、駅前の公園を歩いていた。


 相沢が、ふと思い出したように言った。


「そういや、篠原もお前のこと気にしてたぞ」


 怜司は、少し驚いた。


「篠原さんが?」


「ああ。元気にしてるかなって」


 篠原紗季。


 以前の学校で、怜司に謝罪してくれた少女だった。


 過去に何もできなかったことを悔やみ、少しずつ怜司と話すようになっていた。


「……そっか」


 怜司は、静かに笑った。


「元気だって伝えておいて」


「おう」


 相沢は頷いた。


 そして、少し真剣な表情になった。


「あと、鷹宮たちの件だけど」


 怜司は、足を緩めた。


「……うん」


「学校側の対応は、まだ続いてるみたいだ」


 相沢は、慎重に言葉を選んだ。


「詳しいことは俺も知らないけど、先生たちも前みたいに適当にはできないんじゃないかな」


 怜司は、静かに頷いた。


 あの事件が、すべて終わったわけではない。


 だが、今の自分が戻って何かをする必要もなかった。


「……ちゃんとした形で終わってほしいな」


 相沢は頷いた。


「そうだな」


 それ以上、二人はその話を続けなかった。


 今日という日を、過去の嫌な思い出で終わらせたくなかったからだ。


     ◇ ◇ ◇


 駅前へ戻ると、相沢が笑った。


「いやー、楽しかった!」


「俺も!」


「また遊ぼうぜ!」


「もちろん」


 怜司は、少し考えた。


 そして、言った。


「今度、聖蘭の友達も紹介していい?」


 相沢は、目を輝かせた。


「マジで?」


「うん。きっと気が合うと思う」


「いいじゃん!」


 相沢は、嬉しそうに笑った。


「じゃあ、今度は四人で遊ぼうぜ!」


 怜司も笑顔になった。


「……うん!」


 二人は、拳を合わせた。


 ――コツン。


 以前と変わらない、小さな音。


 だが、その意味は怜司にとって大きかった。


 学校が変わっても。


 見た目が変わっても。


 大切な友情は、変わらない。


 怜司は、帰り道でスマートフォンを取り出した。


 相沢から、早速メッセージが届いていた。


『次はレースゲーム負けねえからな!』


 怜司は、思わず笑った。


『今日も負けたの俺なんだけど』


 すぐに返信が届く。


『じゃあ次も俺が勝つ!』


「……相沢らしいな」


 怜司は、笑いながら歩き出した。


 新しい友達ができた。


 だが、それは古い友達を失うことではない。


 むしろ、自分の世界が広がっていくことなのだ。


 そう思えるようになったことが、怜司には何より嬉しかった。



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